「ウッド〜」
「ん?、どうかした?」
リビングでご飯の下準備をしていたら、が声をかけてきた。
「ウッド、今日がバレンタインデーって知ってる?」
そういえば、今日は14日だった。僕はすっかり忘れていた。
「…ごめんね、。僕忘れちゃってて、贈り物を用意してないんだ」
「あっいや、そういうことじゃなくって、その気持ちは嬉しいんだけど――」
今年はニホン式で、女の子から男の子に――つまり彼女から僕たちに渡そうと思っていたからいいのだと彼女は言って、僕に小さな包みをくれた。
「いつもありがとうね。わたしからのほんの気持ちだよ」
可愛いパッケージにはカードも付いていた。訳せば“バレンタインおめでとう”。こういうのって、あっちでは“義理チョコ”っていうらしい。
「僕のほうこそ、ありがとう。…でも、」
すごく嬉しかった。嬉しかったけれど――。
「僕よりもっと大事な人には、もう渡せた?」
「え!?」
僕にまわすその気持ちさえも…残さず注ぐべき相手が彼女には居る。
「う、ウッド…知って――」
は驚いた顔で僕を見るが…気付かないわけがない。彼女は…僕と二人になってもその人の話ばかりをするのだ。それも無自覚だから困ってしまう。
だけど…みんな主張が強いから、意外にの気持ちを知らなかったりするかもしれない。
「。僕でよければいくらでも練習相手になるよ?」
「えっほんと?」
「でも…僕に“バレンタイン”が務まるかはわからないな」
料理の下準備もひと段落するところだった。に協力できるところはしてあげたい。
「うー…えと、その…一回して、いい?」
そこそこ長く悩んでいたが、僕に訊ねた。
「もちろん。のお願いは断らないからね」
「わーウッドったらおしゃべり上手だなぁ」
にっこり笑顔で応えると、も嬉しそうに笑ってくれた。
……ただの練習相手でも、僕は構わなかった。
「…が望んだことなら、僕は応援するだけだよ」
の隣に僕がいたら、それはこの上ないけれど……。
今はこれでいい、と思った。
僕は誰よりも、…この自分よりも、彼女の幸せを祈りたい。
...more?
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