「バブル兄さーん」
「ん、どした?」
が日中におれの部屋に来るのは、久しぶりだ。兄弟と何かあったのか、それとも相談ごとかな?
「今日ね、バレンタインデーだから」
そうか、そんな日もあったな。なんて考えていると、彼女はおれにキレイな包みを差し出した。
「わ、嬉しいね。何が入ってるの?」
「チョコレートだよ。ニホンの習慣に倣ってみたんだー」
へえ、と答えて、おれはそれを受け取った。添えられたカードには“Happy Valentine's Day!!”のメッセージ。
……ん?バレンタインは確か、意中の人への告白も兼ねていると聞いたことがある。だけど、これは――
「これね、ニホンでは“義理チョコ”って言うんだって。日ごろの感謝の気持ちを表すらしいよ!」
「……」
…ああ、やっぱりそっちか……。
「…うん、わざわざおれにありがとう、ちゃん」
「いーえー」
その無垢な笑顔が、今のおれにはチクチクと刺さるようだ。
あえて言うっていうのは、悪気があってのことではない。…に限っては、絶対そうだ。
「……」
「あっ、じゃあわたし探している人がいるから、またね!」
おれととで、会話が途切れるなんて今までなかったかもしれない。
返事を返す前に、彼女は手を振って去って行った。
「そっかあ…は…」
水面に横になって浮かんで、呟く。
――が求めるのは、おれではなくって…。
「おれの気持ち、通じてないんだなぁ…」
あんなことも出来るのに、いちばん欲しいものは手に入らない。
「……これはこれで、結構つらいね」
射止めたやつが誰か、察しがつかなくもない自分をちょっと呪う。
…こんな片思いをすることは、普通の人間では決してないんだろうな…なんて思いつつ、おれはその身を水槽の中に沈めていった。
...more?
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