生まれおちたこの星から離れること数千キロの――この空の彼方から帰郷したのは、いったい何時ぶりのことだろう。
冬の冷たい空気も僕は好きだ。それにここを離れたら、また季節を感じることもなくなってしまう。思い切り満喫したいくらい…だったが用事は早く済ませたい。いつも通信でたくさん仕事を押し付ける僕の創造主に会うため、僕は足早に研究所へと向かっていた。
「っ!」
「あれ、スター?!戻ってきてたの?!」
暖かな屋内へ歩を進めれば、僕の最愛の女性がいた。驚いたようなその表情を、このアイセンサで直に捉えるのも久しかった。
「ああ、今さっき戻ってきたばかりなんだ。だけどなんて星の巡り合わせだろう!真っ先に君に出逢えるなんて僕は――」
「…うん。元気そうでなによりだよ」
何故だか、少し含みのある返事だった。だけどそれも僕だけにくれるのならば、またとない贈り物。嬉しさがこみあげて仕方がなかった。
「ところで…その美しい包装の袋はいったい?」
これ?とは手提げの中から小さな包みを取り出した。
「今日バレンタインデーでしょ?わたし、チョコレート作ったからみんなにあげてるの」
スターもチョコ食べられるよね?と訊ねられたので、僕は勿論と返した。それに、彼女の手作りだというそれを断るわけがない。喜んで受け取った。
「そうか…今日はバレンタインデー…」
…だけどバレンタインデーって、男性が女性をおもてなしするものだったはずだ。今日のこんな時間まで何もしていないということは、彼女はまだ相手が決まっていないに違いない。
「、さん。」
「ん?」
これは…もしかすると彼女を射止められるかもしれない。
今日というこの素晴らしいタイミングでここに帰ってきて、本当によかった。――そう、思っていた。
「これから、僕のバレンタインデートの相手になってもらえませんか?」
キラリと微笑んで、僕はに右手を差し出した。
「…あの、えーっと…それはムリなの」
困ったように笑ってゴメンねと言うは、僕にこのチョコレートの意味を教えてくれた。
異なる文化圏の慣習では、女性が男性にチョコレートで愛を伝えるのだそうだ。たくさんの人に配るものと特別な人へ渡すものがあるらしい。
「わたし、これから渡さなくちゃいけないひとがいるから…」
瞳を逸らした先には…僕にくれた包みよりも、より大きく美しい箱。
「……そうなんだ」
…僕は、彼女の特別な人ではなかった。
僕にはずっと、行きたいところがある。でも一人では意味がない。と一緒に行きたかった。
いつも僕は、君を連れて行きたくって仕方がなかったのに――。
「君となら、宇宙の果てまで行けるんじゃないかって思ってた…」
それでも僕は…再びここを離れても、またこの星の彼方から君と通信して、たくさんメールのやり取りをしたい。
だってまだ、僕にそのチャンスはあるって…そう思いたいんだ。
...more?
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