「あ、エア兄いた」
「何だ、」
屋上で作業中の俺に声をかけたのは、だった。
「えっとね、渡したいものがあって…」
手には可愛らしく包装された小さなパッケージ。それを、俺にくれるのだという。
「今日はバレンタインデーだから、兄さんにも!いつもありがとうね」
バレンタインデーという言葉に思い当たるものがなく、疑問を呈した俺には丁寧に説明してくれた。ニホンに倣ったプレゼント方法で、俺に“義理チョコ”を渡してくれたのだ。
「俺に気を回さずとも構わないというのに」
そう言いながらふと視線を変えたとき、俺は見つけてしまった。の持つ手提げに、俺に渡されたものよりも大きく…より可愛らしい包みがあったのだ。
何という事だ……。
――彼女にはいるのか、俺以上の存在が…。
「でも、義理チョコっていうのも大切だと思うよ」
やっぱり気持ちってカタチにしないとわかりづらいもんね、とは続けた。
「…そうかもしれんな」
俺はそれが出来ぬままであるから、こうなっているのだろう。
「じゃあわたし、ひとを探しているから、またね!」
その“ひと”…すなわち“本命”であるのは、間違いないといえる。
「待て、ッ」
止める間もなく、は身をひるがえして屋内へ消えた。
彼女はこれから…自ら進んで毒牙に掛かりにゆくのだ。手土産まで持って…。
「ならない。それは、ならない…」
そんなを他者の手から守るためには、俺が彼女の最上位にいなければならないと…そういうことだ。
俺が囲わなければは守れず――しかしそれは彼女の自由を奪うことと同義ではなかろうか。では…優先すべきはどちらだ?
「俺は……」
ああ。また一つ、俺に枷が増える。心が軋む思いだった。
...more?
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