「どうじゃった?」
「えと、その…上手くいった感じ、かな…」
結果報告と称して、が部屋にやってきた。
しかしその表情から、細かいことを聞かずともどのようになったかは、手に取るようだった。
…当然じゃ。このワシが協力したんじゃからな。
うんうんと、腕を組んで頷くと、彼女はワシを見やって嬉しそうにしていた。
「でも、博士がいろいろ手伝ってくれたおかげだよ」
ほんとにありがとう!とは感謝の念を述べた。
「なぁに、大したことはしとらんよ」
ワシにはが良い顔をしていることが何よりだった。だからコレの世話焼きはやめられない。
「それでね、これ…博士にもチョコレート」
「おお…こんな可愛らしく包んで、よいのか?」
「もちろん!これは博士の分だもの」
手に乗るくらいの小さな包みだったが、わざわざワシの分まで用意しているとは…。
それをじっと見つめていると、彼女は「そうそう…」と思い出したように話し始めた。
「こういうのって“義理チョコ”って言うんだってね。雑誌に書いてあったよ」
「……そうじゃな」
まあ、本命ではないのだ。同性同士でもないので、そういうことになる。
程なくは、それじゃあね、と言って研究室から出て行った。
…彼女を見送ってから妙に引っかかるのは、落胆した気分になっている己の心中だった。
こういった感覚は数十年ぶりで――思い出すのに時間を要してしまった。
「……なんともはや…」
気づいた瞬間、思わず額を手で押さえていた。
この“ワシ”が、に本気になってどうする…。
――自分の所為とはいえ、厄介なことになったものだ。
しかし…今日はまだまだ仕事が残っている。切り替えなければ、と一つ息を吐いて、随分前に入れたままだったアメリカン・コーヒーを啜った。
…所詮はインスタントだ。すっかり冷めきったそれは、苦くて酸っぱくて、飲めたものではなかった。
...more?
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