だからよ、何でお前ってやつはそこまで我慢し続けちまうんだ…?」
涙を零してうつむくコイツに溜息混じりの皮肉をふっかける。反応は、無い。
どうもコイツはあまりよろしくない癖がある。
自分を、甘やかさない…いや、甘やかす方法を知らないみたいだった。
職場で筋違いの攻撃を喰らい続けているのは知ってた。
何度も辞めてしまえばいいと、手を差し出した。
なのに、こいつは振り払った。
『自分が悪いから、時間が立てば変わるかもしれないから』
そうして、何が変わっただろうか。
コイツの心が限界にまで来ちまった、どうしようもない救いようのない展開しかこなかったじゃねぇか。
怜真 「なぁ。なんでそんなに自分ばかり大事に出来ない?お前はもう少し、自分で自分を大事にするべきだぜ?」
「……」
「…最後に自分を助けてやれるのは、博士や、みんなや、オレじゃない。お前自身だぞ?」
コイツの嗚咽が更に強くなった。
抱きしめてやりたいのに、オレは、そうする事を許さなかった。
なぁ。お前がちゃんと自分を解放してやれたらよ…。そしたら、「よくやったな」って褒めてやるからよ。
だから、今は全部涙で流しちまえ…
End.
彼女は、俺がここに来ると目敏く見つけて、呼びもしないのに寄って来る。
そして挨拶だけをすると、どこに行って来たのか、何をしてきたのか、根掘り葉掘りと聞いてくる。
毎回それの繰り返しだったから、俺は戻る前に思い起こす作業をしなければならない。
……手間が掛かる。何のためにこの研究所へ来ているのか。
動力源のメンテナンスとエネルギーの補充――のはずが、こんなことに比重が傾いている。
今日も、そんな事になるんだと見当を付けて来ていた。しかし――
「――シャドーさんっていってね、誰に作られたかは秘密で教えてくれないんですよ」
彼女から話をされ、切れ間もない。
「それでね、話を聞いていると何年も一人で居たみたいで…」
……誰だ、そいつは。
「とにかく、不思議な格好と雰囲気なんですよ。こう…オリエンタルで、ご飯もライスの炊き方とミソスープの作り方しか知らないの」
楽しそうに話す姿。思い出すように空を眺めるその瞳。
違ったのか?……誰でも、よかったのか?
「……もういい」
「え?」
俺はただの招かれざる来訪者で、あの子は悪の根城に好き好んで軟禁されている愚かな少女で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
彼女が俺に寄って来るのは、単に外部の存在――外の世界を知るロボットが珍しいからで、俺でなければいけない理由など無かったのだ。
「今日はもう、行っちゃうんですか?」
「……」
「あ、ぶ…ブルースさん!」
窓の縁から、壁を大きく蹴って、地へ降りた。
駆ける。駆ける。フルパワーのエネルギー。配分も考えられない。物事の優先順位は、この少女によって狂わされたきたのだ。何度も、何度も。
マフラーなんかを、纏わなければよかった。黄色の布地を乱暴に引いて、芝の上に抛る。
……この瞳が――彼女に見えないようになっていた事だけが、俺の救いだった。