は“最重要保護対象”の人間。オレはセカンドナンバーズ一の戦闘能力を持つヒューマノイド。
強くなければ、弱いヤツを守ることはできない。守るには、強くないといけない。
だからオレはのために回復を優先させたのだ。……無意識だったが。
なのに何だ。を思いやれ?考えて動け?
オレだって――について毎日沸騰するくらい考えてんだよ……!
「」
「……なに」
から頬にビンタを食らって、91時間9分12秒後。
あの時と同じ場所でオレを見上げたその表情は、硬かった。
「……」
自分のことながら、どうしてここまでのコトになったのか。
オレは、ただ止まって倒れていただけのはずだ。他にマズいことでもしたか?…だがメモリに入ってないものは思い出せない。
とにかく……これからどうしたらいいのか、それが問題だった。
「…買い物、頼まれた。も来い」
「え?」
「頼まれたんだよ。手伝え」
悩んで悩んだ末に、オレはウソをついた。…最悪だ。フツーなら絶対しない。
それでも…なんとかしないといけないという気持ちで口から押し出した。
「……」
言ってはみたものの、は無言でオレを見るだけだった。
ほんの少しの何もない時間が、無性に恐ろしく感じる。
「とにかく、一緒に来いよ!行きゃあおまえも何か買うだろ?」
…怖い。いっそのこと、怒鳴られて追い返されるほうがハッキリしていていいとすら思う。
「ほらっ」
右手を彼女の前に出した。さらに負けじと、オレもじっと見返す。ちょっとでも、コイツを動かすことができるように。
やれることはやらないと…でないときっと、オレとは戻れない。だいたいのことを許してくれる彼女が、こうまでなったのだ。オレがどうにかしないと本当に終わってしまう。
「……いい、けど」
オレにとっては永遠くらいに見合って、ついにがOKを口にした。
ダメかと思った。気合いで表には出さなかったが、内心はクッタクタで…今にもへたり込んでスリープしたい気分だ。
「…じゃ、早く来いよ」
彼女には素っ気なく聞こえたかもしれない。……ただそう言うのがやっとなだけだった。
“オンナという生き物は準備に時間が掛かるものだ”と誰かが言ってたのを思い出したので、支度をしたオレはエントランスでひたすら待っていた。
せめて今日だけはキレない、を怒らない、と決めてきた。
途中、このまま来ないんじゃないか……なんてこともよぎったが、これから使う“足”のチェックをして気をまぎらわせた。メンテは大切だ。…オレ自身も。
「……お待たせ」
「…、おう。」
相変わらずおっせーのな、という言葉を飲み込めた今日のオレは、明らかにいつもと違うだろう。気付いているだろうか。
いつもと違う無愛想なを連れて、エントランスを出た。
「。乗れよ」
出口に持って来ていたのはタンデム。つまり二人乗りできるツアラーバイクだ。オレが趣味で使ってるシングルのスーパースポーツとは違う。
いつか、何かあったら……そう思ってひそかに置いていたものだ。でも…こんな形で乗せるとは思ってなかった。
「…これに?」
「ああ。おまえ、乗ったことないだろ。コレで行こうぜ」
驚いた顔で単車を指差されたが、気にせず車体へと手を引いた。
「わたし、この格好で乗れるの?」
「あー、なんとかなんだろ。たぶんいけっから、気にすんな」
ケースから予備のヘルメットを出して、かわりに彼女の荷物をしまう。
被れよ、と差し出しても、踏ん切りのつかない様子だった。
「おまえにケガなんてさせねーよ」
……と、口に出してから思ったが、オレはずいぶん強気にいった気がする。
ツーリングならオレの独壇場だ。絶対に限りなく近く、約束できる自信があったからだが――。
「……出掛ける準備、してきたし。……どう乗ればいいの」
「ああ。…教える」
今度もが沈黙を解いた。オレは考えるのをやめて、ライディングのレクチャーを急ぐことにした。