「ただいまー」
「おかえり、ちゃん」
たくさんの荷物を提げて彼女とリビングに向かうと、珍しくバブルが来ていた。…というか、全員いた。
そこは、暇を持て余した弟どもの巣窟だった。
「お前ら…働け」
七者七様のこの有り様…オイルの循環に不備を来たしそうになる。人間的に言えば、こめかみに筋が浮いている状態だ。
「あ?…ンなの知らねーっつの」
「長兄サマがそんなんじゃ、俺らだって…なァ?」
頭の無いバカと火力の無いハゲがソファでだらけていた。この…能無し共が。
「長兄。行うべき仕事の片は付いている。弟たちも…おそらく」
「そうか」
エアーの言うことは事実だろう。…スイーツ片手だが。
「ずいぶん買ってきたね。兄さん、食料もある?」
「ああ。生鮮食品を頼んでいいか」
「うん、わかった」
まともなのは末弟だけか。…我が家は終わっている。このままでは実家が潰れかねない。危機感というものがないのだ。
「ねーねー、今度はおれとお出かけしよーよ!」
「どーだった?楽しかった?」
は早速クラッシュとヒートにくっ付かれている。疲れた顔もせず、彼女は満面の笑みで答えていた。
「うん、とっても!…ね、にぃに!」
俺のほうを見て、またニッコリと笑った。反面、俺はフリーズした。
「…にぃに?」
案の定、可愛い子気取りの小さな弟が、瞳の奥に黒いものを宿して聞き返している。
「あっ!」
「……」
しまったという顔をしたら、もっとせっつかれるというのに。…しかし取り繕う術を持たない彼女に指摘したところで、意味がない。
「メタル兄さんが…にぃに…?」
台所ではウッドが買い物袋を落としていた。…卵と、俺のイメージ崩れが心配だ。
「にぃに、って…なに?」
「兄に対する呼称のひとつだ。親しみを込めて言う場合と…いわゆる幼児語の場合がある」
律義に説明をするな、エアー。なるほどー、と納得するなクラッシュ。
「にぃに、ね…へえ」
バブルの含みを持った言い方が引っかかる。これは…こいつも後でに言わせる気だろう。違いない。
「メタル…お前のことか?」
フラッシュが引いている。お前にだけは、そのリアクションをされたくなかった。
「うーわ。ナシだろフツー。だっせ」
……こいつには今度厳しい任務を与えようと思う。
しかし…想像以上の総スカンだ。最初に、に釘を刺したまでは間違っていなかったようだ。
俺は久しぶりに、人工皮膚に冷却液が滲む感覚を覚えていた。何せ1対7だ。最も味方に近い一人は戦力外。幾らなんでも分が悪い。
「…忘れ物をした」
「え?」
形勢を立て直すのが賢明だ。幸い、時間はまだある。
「しただろう、」
首を縦に振れ、。振らなかったら、次の夜はお前にとっての地獄になる。俺のベッドを墓場にしたいか?したくはないだろう。俺もまだお前を生かしたい。逝かせもしたいがそれはまた別の話だ。
――という想いを瞳にのせて、俺は一心にを見つめた。
「…し、した。忘れ物、した」
こくこくと彼女は激しく頷いた。
そうだ。想いは通じる。俺との仲だ。
「急ぐぞ、陽が落ちる。」
荷物を持ったままの手を引いて、俺たちはリビングから跳ねるように駆け出した。
…創造主からの使命がなければ、このまま逃避行したい気分だった。