04. #2



…で。部屋に入れたはいいが、どうしたらいいんだ?
博士の指令は「と寝ること」だった。次回からはヤッてもいいが、今回はそれはダメで――って…!?
よく考えると、なんてぶっ飛んだ話だ…。
要するにコイツを好きにしていいってことなんだろうが、博士の指令=命令な以上、近いうちにヤれって言ってるのと同じだ。
フツー、そこにいくまでにいろいろあるはずなのに、すっ飛ばせっつーのか!?
そこも込みで、オレらで何とかしろってことなのか。オレととはそんな関係でもないのに。
それにべつにオレはを、そういう意味で…好きとか、そんなんじゃない。しかもはオレのことを、たぶん…。
「どうしたの?」
「へっ!?」
「そんなびっくりしないでよ。…いきなり黙っちゃったからどうしたのかと思ったの!」
「…なんでもねー」
不意に我に返り間抜けな声が出てしまった。カッコ悪い…。
取り繕うオレを、がいぶかしげに見る。
「んだよ」
「クイックってさ、けっこう顔に出るよね」
「あ?」
「難しい顔したり、青くなったり赤くなったりしてた。」
「…う、悪ィかよ」
「ううん。おもしろいから好き」
ああ、今日はダメなところばかり見せていて、嫌になる。
だがコイツはこういうことで笑っても、なんつーか、やらしくならないのがすごい。どこか品があるというか。そんな一面を見ると、根っこから素直なんだろうと思える。…だが。
「…おまえもけっこう顔に出るぞ」
おかげでオレは一喜一憂しているんだからな…。

「あーもう、とっとと寝ろ!」
なんだかんだと考えていても仕方がない。動かないことには何も始まらないのだ。
「おまえはそっち行ってテキトーにしろ!よし、電気消していいな?」
「ええっ待ってよいろいろ早すぎだって!」
…早い?ハヤイことは、いいことだろうが。
それに今日は、オレのいつもの就寝時間を大幅に過ぎている。明日に響くことなんて絶対にあってはならない。――なぜなら。
「早く寝ないと、オレが一番に起きられなくなるだろ」
これはオレがオレたるためになくてはならない、いわば至上命題だ。何があろうと決して外せない。
「クイックが朝一番乗りに命かけてるのは知ってるけど!ちょっと質問させてよ」
「さっさと言え」
「えっと、ひとつは、クイックは一緒にベッドで寝ないんですか。」
「別にいいだろ、オレは機能を休ませればいいんだから」
わざわざコイツの隣に行ったらまたいろいろ考えてしまいそうで、面倒が増えるのはイヤだった。だいたい、寝るという本来の目的を達成するならそれで十分だ。
「えーこんなに広いのにもったいないよ」
「おまえ一人で幅広く使えばいいじゃん」
「一人はさみしいなぁ」
「ち、近くにいンだろうが。コドモじゃねーんだからぐだぐだ言うなよッ」
拗ねたような声音使いやがって…。甘えてこられたオレの気持ちがどうなるのか、全然わかってないから出来るのだ。
そうやってオレの調子を狂わせるから、決まって怒ったような言い方になるっつーのに。オマエのせいなんだぞ!

そんなオレの荒い口調にびくりとしたは、浮かない顔に一変した。そしてやや考えると、こう切り出した。
「…あのさ。これはマジに聞くけど」
「ンだよ」
「クイックはさ、わたしを避けているよね」
「…はあ?」
オレは考えもしないことで、間抜けな返事をしてしまった。
そんなことにかまわず、はオレに気を使うようにおずおずと、だが止まることなく言葉をつむぐ。
「なんていうかその。キライならさ、博士に言ってやめてもらったほうがいいよ。これ」
「え…」
どうしてそうなる!?待て待て、勘違いしてるぞ!
…と思ってものセリフが止まるわけではない。
「無理することないし。なんならわたしが今から博士のところに行って――」
「ち…ちげーよ!」
気付けば、勝手に言葉が飛び出していた。

「オレがおまえのことキライ!?なわけあるか!オレはおまえのことをすげえ大切に思ってあれこれ考えてンのにうまくいかねーんだぞ!おまえだって何だよオレがいたり話したりするとすぐ嫌な顔するくせに!いつもそうだ!おまえのほうこそオレのことがキライなんだろ!?だったらもうこっから出ていけよ!つかいっそハッキリとオレに向かって“キライ”って言えばいいだろ!」
言いっぱなしに耐えられず、オレは頭で考えるより早く機関銃のようにまくし立てた。勢いにまかせたために今になって息が切れ、器官に負荷がかかっていたことを自覚する。…オレはヒトじゃねーぞ、どうしてこんな感覚があるんだ。
「……」
沈黙が苦しい。自分で何をどこまで言ったのか覚えてもいないが、たぶん…かなりひどいことを言った。
またオレはコイツを傷つけたのか…。猛烈に後悔しても、遅い。
「その…悪ィ。これ以上オレに構わなくていいから…もう、部屋に――」
「わ、わたしだってクイックのこと嫌いなんかじゃない!!」
今度はが大声をあげた。拳をギュッと握って、オレを真っすぐにとらえていた。

「ちがうの。わたし、クイックと話そうとするといつもギクシャクして、すぐ怒られるし、クイックはわたしに話しかけられるの嫌なんだろうなってずっと思ってて…」
でも、とは続けた。
「クイックもおんなじこと考えてたんだって、今わかって。…ちょっと嬉しかった」
がオレを見て、はにかんだ瞬間にドキッとした。体温が急上昇している。
「…マジか?」
信じられなかった。こんなことは、今までになかった。
「マジだよ。なんか、ホッとした…」
オレは全然知らなかったのか。同じことを考えていたのに。
…ん?同じことを、考えていた?
オレと同じってことは、もしかしてコイツも――オレのちょっとした仕草や言葉に動揺したり、オレが居るだけでなんかワケがわからなくなって勢いで突っ切って後悔したり、なんでもいいから力になりたかったり、一緒にずっといたかったり、…二人きりでソレだのアレだのをシたい衝動に駆られたりするのか!?
「…オレと同じ、なんだな?」
「いまさら嘘は言わないってば」
そ…そうなのか!
だったら、だったらもっとオレは、オレのほうからいろいろやったほうがいいのか!?いいんだな!?

「なんか…バカだったな」
互いに勘違いしていたなんて。
わかってしまうと、途端に気が抜けて笑えてきた。
近くに…ベッドの横に座ると、もはぁーと息を大きく吐いた。
「でも、ほんとよかったぁ。クイック、嫌いじゃなかった…」
顔を見ると、目じりに水が溜まっていた。
「おい…なんで涙目なんだよ!」
「ほっとしたら、な、何だか…」
「なっ、お、落ち着け!」
「クイックのほうが慌ててるよ、ふふ」
な…泣きながら笑うなんてことがあるのか。悲しくなくても涙が出るなんて、知らなかった。
「ふぁ…。落ち着いてきたら眠くなってきた…」
「くく、忙しいヤツ」
「いつもはクイックのほうが忙しそうだよ?」
「うっせ!早くすんのの何がわりーんだよ」
いちいち突っ込まれるのはなんか悔しい。
「あー、眠いならもう電気消すから!」
「クイックは、どうするの?」
……。ちょっとニヤついて聞くな、バカ。
ここまで来たら踏み出すしかないのは分かっている。だがな!
「…特別に、一緒に寝てやっても…いい」
おまえ…マトモに顔を見られないだろうが…!


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