彼と彼女と彼の逢引 ・後



オーケストラの野外演奏会も終わり、と店を見てゆく中で……私は気付いてしまいました。
。帰りましょう、一刻も早く」
「…え?どうして、ジェミニ」
まだスカートしか買ってないよ?などと呑気に言っている場合ではないのです。
私たちロボットには決して起こらないものですが、知っています。…無理をしては、ただつらくなるだけという事も。
「貴女の為を思って言っているのです。」
「わたしはまだ、買い物したいよ」
「駄目です。」
その歩き方、そして薄氷のような笑顔。見ているこちらが痛々しくて堪りません。

「だって貴女――靴擦れを起こしているでしょう」
「!」
言い当てられたは驚いた顔をしますが、私は彼女のことならばあらゆる事を察知できるのです。これは私のホロとの共同作業故でしょう。
「大丈夫だよ。モールまわってから帰っても、大して変わらないって」
彼女を一人占めできる貴重な時間であるのは、私だって重々承知しています。しかし最も大切なのはそこではありません。全くもっては分かっていない。
「私は!貴女を傷つける事を、許しませんよ!例え、貴女自身でも!!」
……しかも彼女が痛いのを知りながら歩かせるだなんて、私たちのような紳士が出来るわけがないでしょう!
着飾るのも化粧をするのも、彼女の美しさを引き立たせる為の要素の一つに過ぎないというのに…。そう、最も重要なのは“”――中身である自身なんですから!

「……でも。」
はまだ帰ることを渋ります。
「ちょっとホロ、貴方もに言って下さい!」
これは…私だけでは荷が重いようです。今こそ私の愛するホロに出てもらい、共に説得を行うべきでしょう。
は何をしても美しく絵になるが、外見だけに囚われる考え方は改めたほうがいい』
私の隣に現れたホロには小さく驚きましたが、同時に出る事はよくあるので……どちらかというと道行く人間の方が、突然現れた私と瓜二つの彼に目を丸くしていたように思います。
でも気にしません。気を注ぐべきはのみですから。
「ホロの言うとおりですよ!私だって、外だけでなく中も磨くのです。」
…何故か意外そうな顔をされた気がしますが、この際それも気にしないでおきます。

に傷が付いたら、本末転倒もいいところだな』
「連れて帰りますので、取りあえず抱かせて下さい。横が好いですか、縦が好いですか。」
が痛みを堪えながら俺の為に何食わぬ顔をしていたと思うと……それも別の意味で悪くないが』
「負ぶるのは私が貴女の顔を見られないので控えさせて下さい。」
私とホロの隙のない喋りかけに、は発言の機会をことごとく無くしたようでした。
よって、私とホロの一存で姫抱きからの通常抱っこに決定です。に腕をまわして貰ったほうが安定して、彼女も疲れずに運べますし。
ああ。美しい、私とホロの素晴らしいコンビネーション。…彼も私なんですから、当たり前ですね。

を抱えるのなら、その靴は俺が持ってやる。』
が私の為に履いてきてくれた大切なパンプスは、ホロが請け負う事になりました。無駄のない分担です。
「ホ…ホロ、出ていられる時間短いんじゃなかったっけ」
の靴を運ぶ任務の責任は重大だ。バッグと袋も持つ。』
「いや…もっと重要な時に出てもらった方が…」
はホロに意識が向いて、抱かれて帰ることの是非についてが飛んでいますね。もとより、訊ねてなんていませんが。聞いたのは抱き方だけです。

「帰りましょうか。」
『そうだな。』
ホロと目を合わせ、同じタイミングで頷きました。
彼の黄味の橙の瞳は私の青白いそれよりもやや明るく、天上に輝く弟星のようです。いつ見ても美しい。
そして私は左から、ホロは右から、同時にの瞳を覗きます。
「では。抱きますよー」
。靴を脱いで荷物を渡せ』
この世界に一対だけの極上の星に、今映るのは…私たちだけ。名残惜しいですが……輝き続けて貰う為にも、その時が来ています。
「ええ、ちょっ…!」
私たちの判断は間違っていないと思います。仮に、戻って私たちの創造主に問うたとしても…必ずや肯定でしょう。

「や、待ってジェミっ、ひゃ!…そのっ、足寒いから、ホロ――!」
『周りを気にして小声か。愛らしい事だな』
「帰ったら手当をして、足湯にしましょうか。ラベンダーベースのアロマオイルを入れて…」
ヒューマノイドからすると彼女の身体なんて軽いもので、小さな抗議も難なく私たちは家路を急ぎました。

――え?
ハプニングはありましたが、愉しいデートでしたよ。また私のホロと真面目に頑張って、休暇を得たいですね。
それでは…皆さま、御機嫌よう。


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8000hitキリリクは「ジェミニ夢」でした。優姫さま、大ッ変お待たせしました。
恐らくイメージと大幅に違ったと思いますが、どうぞお納め下さいorz

何でこんな…ネジのぶっ飛んだジェミニになっちゃったのか。
でも、無理してヲサレした彼女の靴擦れに気づけるジェミニは紳士…よな…

(101101up)