皆さま、御機嫌よう。
この私ことジェミニマンは、現在至福の真っ只中に居ります。
宇宙だか何だかよく分からない場所でよく分からない任務に就かされていたのですが、勤勉なる働きが博士に認められて、お休みを頂けたのです。
メンテナンスと近況報告に上がった際にその旨を告げられた私は、早速その足でリビングに居るに逢いに行き、デートの約束を致しました。
――「本当?じゃあ、明日一緒に服を買いに行きたいな」
先発の兄様諸氏による殺伐とした視線を余所に、私たち――私とと私のホロは計画立てに夢中になりました。
そして……今まさに、私はと連れ立って街を歩いているのです。
こんな幸せなことがあるでしょうか、いや、ありません。断言できます。私は起動して以来の、最高の時を過ごしているんだと。
この日の為に、私は愛するホロと共に遠方の任務を真面目にこなして来たと言っても過言ではないでしょう。ホロも私の中で大きく頷いています。
…ああホロ、落ち付ける場所に行ったら貴方と交替しますから、もう少し待っていて下さいね。
「寒くなってきたね」
急いでおろしたという冬服が、それを一層主張しています。
こうやっての冬の装いを見るのは…そういえば初めてです。ホロが超音速並のスピードで私のメモリをサーチし、教えてくれました。何て優しい、私のホロ。
「うーん…には、そうかもしれません。ですが私がいつも居る所は、もっと過酷――というかは行けないですね」
目を遣れば、街行く人間も同様に厚着でした。
中央広場の前で何やら準備をしているので、に声を掛けて寄ってみる事にします。
「通信でも教えてくれないけど、ジェミニってどんな仕事をしているの?」
「秘密です」
「もぅ、いっつもそれだ」
片目を閉じて悪戯っぽく言うと、彼女は少し不機嫌な表情を見せました。……そういう彼女もまた、愛らしいものです。
彼女の意に沿う事はできませんが、私は仕事とプライベートは分けると決めているのです。
任務など忘れて、ただを愛でたい。そして、何にも囚われずにが私たちを愛してくれればいい。…これは、願わくば。
「知らない部分があったほうが、ミステリアスで魅力的だと思いませんか?」
「知らないことばっかりじゃ、わからないことだらけでつまらないよ!」
私は自分の知らないところで彼女が何をしていようが、そんなに気にならないんですけどね。可能な限り手元に居てほしい気持ちはありますが。
まあ、の言い分も分からないでもないです。一般論というところでしょうか。
「――では、私もに質問しましょう」
彼女に合わせて、私からも一つ聞いてみる事にします。…普段あまり喋らない分、との会話が愉しくて仕方ないです。
――正面に大きなカボッション・カットの天然石、サイドに少しだけ細石を散らした品の良いデザイン。
美しく輝くそれは、が「いってきます」と最初の一歩を踏んだ瞬間から目を惹くものでした。
「その…ラウンドトゥのパンプスは、貴女が選んだのですか」
訊ねると今度は、の瞳が輝きだしました。広場の石畳でスキップをして、満面の笑みで振り返ります。
「そう!ジェミニが好きそうだなって思って…勢いで買っちゃった。」
「私が――!」
つまり…彼女は、私に見せる為だけにこれを選んでくれたと……!
は私のツボを心得ています。本当に。これは、最高の感想を述べなければなりません。
「とても素敵です、。私の好みですし――何より貴女に似合う」
素材も季節感が出ていますし、高めのヒールは彼女のスタイルより良く見せてくれます。
「私を想って物を揃えるとは……。プレゼント以上に嬉しい事だと思います。ありがとう」
額に軽くキスをしたら、それが合図みたいに丁度良く、広場でオーケストラの演奏が始まりました。
最初の曲が何だったかは――音に驚いた彼女へと意識が向いてしまったので、覚えていないのですが。