※にぃにver.
+--バレンタインに捧ぐため--+
博士と作戦会議をしてから、数日。明日がその決戦日。
そして今は、その前夜だ。
…わたしは、一人で戦っていた。
「何やってんだよ」
「ひみつ!」
「キッチン占領してるんだって?どうしたの」
「な、なんでもないよっ」
「なぁに?教えてよー」
「まだ教えらえないよー」
「ん、料理の練習でもしているのか」
「…まぁ、そんなところかな」
「えー見たいな〜」
「見ちゃダーメ」
「何か手伝おうか?」
「いいの、こういうのは自分で頑張らないとだから!」
だから…お願いだから、今はこっちに来ないでー!
キッチンで明日の準備をするわたしに、みんなが代わる代わる声をかけてくるのだ。
気に掛けてくれるのは嬉しいけれど、今回だけは困ってしまう。
こういうものはサプライズが重要だって思うから、気をつけなければいけない。…そう、これは絶対バレたらいけない、秘密の計画だ。
でも甘い香りはするから、お菓子を作っているのはわかってしまっているだろう。
もちろんみんなにも渡すつもりだけど、“彼”だけは特別なのだ。それはまだ、知られちゃダメだった。
だけどその時になって、その、特別っていうのに…彼は気づいてくれるだろうか。
「うー…やっぱり“恋”っていうのかな、こういうの」
カウンターに寄りかかり、わたしは息を一つ吐いた。
みんなを好きなはずなのに、彼だけはなんだか違うのだ。好きだけど、同じな“好き”じゃないようで、彼に近づくとどうしたらいいかわからなくなってしまう。
近づきたいんだけど、ヘンになるから近づきたくなくて。
傍にいたいけど、いざそうなるとソワソワして傍にはいられなくなって。
「…おかしいよね、ほんと」
このごろは、ため息が止めどなく出る。…ほとんどビョーキだ、と思う。
「あっ!」
キッチンタイマーが鳴って、考えるのを中断させた。
「そろそろ、できたかな?」
わたしは仕上げをするため、再び動き始めた。
出来上がりは、上々だった。
わたしは、バレないようにそれをキッチンから自分の部屋に運んだ。上下左右、しっかり確認しながら行ったので、大丈夫だと思う。
「よっし…できた!」
パッケージは、数日前に博士と一緒に街に行かせてもらったときに、かなり悩んで買ったものだ。それににリボンをかけ終えると…自分で言うのもなんだけど、キレイなラッピングになったので嬉しくなった。
続いて、一緒に買ったカードにもメッセージを書いた。
「“わたしの親愛なるバレンタインヘ”…か。」
親愛って、どっちの意味にも取れる言葉だ。…まだあいまいなわたしの気持ちには、ちょうどいいのかもしれない。
…今はとにかくそれを包みの上にくっつける。これで準備OKだ。
あとは明日…これを渡すだけ。
でも――博士はちゃんと、彼の仕事をお休みにしてくれたのかはまだわからなかった。
たとえお休みでも、この敷地内にいてくれないと、わたしは彼に渡しには行けない。それも伝えてあるのだろうか。…この作戦がバレない程度に。
「……」
心配だ。すごく心配になってきた。
「…博士、お部屋にいるよね」
通信機器だと、集中しているときは反応してくれない。だったら直接会って、聞いたほうが早い。
わたしは居ても立ってもいられなくなって、部屋を飛び出していた。ほんとのことを言うと…一人で不安でいるのが、イヤだった。