'09 X'mas dream #2

※にぃにver.

--ツリーの下からスウィートトラップ!--

「メリークリスマス!」
クリスマスイヴ。東洋の島国では恋人と過ごすための日と化しているが、この研究所があるところは家族と過ごすのがポピュラーな国柄である。この敷地に居住する彼らも例にもれず、この日を迎えていた。
とはいえ、彼らそれぞれに血縁関係があるわけではない。10の人の形をしたもののうち、二人だけが人間で、残りは人の形をしたロボット、すなわちヒューマノイドだった。

「かんぱーい!」
「はいはいカンパイ」
「さーて今日は飲むぜー」
勢いよくグラスを掲げたのがムードメーカーのクラッシュ。付き合わされているのはフラッシュだ。人間用のアルコール飲料を手酌し、嬉しそうなのはクイックである。
「わぁ、兄さんさすがだなあ。おいしそう!」
「ターキー食べよっ!エアーおにいちゃーん!切ってよー」
食べ物に興味がいっているのは末っ子のウッドとそのすぐ上のヒートだ。
「こら、急かすなっ」
「取り皿全部いってる?」
「…確認済みだ」
弟の対応に追われるエアー、マイペースに状況を確認するバブル、それを冷静に返すメタルは、稼働キャリアからして兄のような位置づけである。

奥で洋酒を愉しんでいる人間がそのヒューマノイドを製作した博士。髪型が特徴的な初老の男性だ。その向かいでジュースを飲んでいるもう一人の人間は、まだ少女いってもいい体躯の若い女性である。名をといい、博士に拾われた身である。
奇妙な関係の彼らは、同じ時を過ごす中で家族同然の意識を持つようになった。しかし先日、博士が己のナンバリングヒューマノイドに“とある命令”をしたことによって、彼ら――ナンバーズの内面をより一層複雑なものにしている。
を思いやる気持ち、想う気持ちは日に日に家族としてのそれではなく、明らかな恋愛感情へと変化し、彼らはそれを自覚していた。


「ふふふ〜」
「なにニヤニヤしてるの」
「あのツリーの下の、プレゼント!みんなわたしが貰っていいって博士が言ってたの!もう今から何が入ってるか楽しみで…うふふふ」
テーブルからツリーを眺めて笑うにバブルが話しかけると、心底うれしそうな返事が返ってきた。
「……そ、そう。」
「クリスマスが本当にこんなたくさんのプレゼントに囲まれる日だなんて。あぁ、年に一度のごほうびって感じだね!」
隣のウッドが含みのある返しをしたが、は気にすることなく話し続けた。
ちょうど一年前もとナンバーズのほとんどはここにいたが、彼女はまだここの環境に慣れておらず、ナンバーズも博士以外の人間と関係構築するためのスキルが低かった。そのために互いによそよそしく、クリスマスパーティも小規模にとどまっていたのだった。
彼女にとっては、派手に行われるこのパーティが新鮮で仕方ないのだ。

!だったらあの左の真ん中にある黄色いリb」
「ヒーーーーーーーートォォォ!!!」
「ぎゃっ!」
突然、それまでロッキングチェアでブランデーを嗜んでいたはずの博士が、ヒートへタックルした。初老とは思えない速度で突っ込んだために、不意打ちされたヒートはよろめいた。
「博士、攻撃力ありますね。」
メタルが妙なところに感心し呟く。
「ヒート。…失格になりたいんじゃな?」
「ごっ…ごめんね博士!ボクわかんなかったんだもんっ」
両腕をがっしり掴んで、博士はヒートを見下ろした。ヒートはルール違反と知っていたのだが、博士の態度に正直に答えるはずはない。出来るだけ可愛く謝ってみせた。
「え?博士、なに??」
呆気にとられていたもさすがに我に返り、疑問を口にする。
「も、問題ない!引き続き歓談していなさい」
「え、うん…」
サラダを取り分けていたエアーが、わざわざテーブルの端から彼女に叫んだ。
「…エアー、もうちょっと言い方あっただろ」
「いやそれより距離考えろって」
それを横目にフラッシュとクイックは、エアーに聞こえないように突っ込み合っていた。


“このクリスマスパーティでにプレゼントを渡し、最初に開けたものの送り主が今晩自室に呼べる。”
彼女の意思は?という問題をこの際(というかそもそも一切)感知していないトップダウン方式の指令だが、創造主にはいちおう忠実だったナンバーズたちは思い思いのプレゼントを用意して来ていた。が眺めていたツリーの下のプレゼントである。
開けるのは食事の後のお楽しみだと博士が言ったために、皆ひとまずは後のことを考えずに食に興じているのである。
メタルが焼いたターキー、フラッシュとウッドが作ったオードブル、エアーが朝から張り切って仕上げたクリスマスケーキ。テーブルセッティングはの担当で、はじめはカトラリーが綺麗に並べられていたが、食事もいよいよケーキを残すのみとなった今はデザート用のフォークと丸皿が並んでいる。

「やん、この上のトナカイさんかわい〜」
「かわい〜だってさ!良かったねエアー!」
「そ…そうか」
「…やんって…なんか……」
の言葉をクラッシュに拾われ、エアーは少し照れている。クイックは言葉の拾い方を間違えて、一人モヤモヤしていた。
「10等分か…面白い」
「うん、兄さんなら狂いなく分けてくれるよね」
ケーキカットはメタルの仕事だ。ウッドがケーキキャンドルを除けて準備万端である。
「ワシ、糖尿心配じゃから欲しい奴にくれてやるわ」
「はーいじゃあボク!!」
「おまえ…人間だったらもっちもちに太ってるぞ」
「サンタチョコで我慢しなよ」
博士の分を食べたがるヒートにフラッシュが軽く毒づく。バブルは折衷案で嗜めるが、わがままな弟には通じそうもなかった。


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この後はパーティの佳境。