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「わ、木の小物入れだぁ!すごい、これ手作りっぽい!」
僕の包みを最初に開けてくれるなんて…びっくりした。
「あっ、それ…僕が作ったんだ」
「ウッドの手作り?本当に?ありがとう!」
すごい、すごいとあの子が言ってくれて、一所懸命に作ってよかったって心から思った。
「さすがウッドだな。上手に作る」
「うわーほんとだ。おれもこれくらい器用だったらなー」
「クラッシュにはムリムリ!ボクがアイス好きになるくらい無理だね!」
一緒に見ていた兄さんたちに感心されて、それも嬉しかった。しかもまずメタル兄さんに褒められた。初めてのことかもしれない。
「ウッド、大切にするね!」
「うん、できれば使ってくれると嬉しいな」
大事に使うよ、とあの子は小物入れを箱に戻した。しまい方からして、そーっと丁寧だったので、僕はそこまで慎重にならなくってもいいよと言った。そうしたら、大切に扱いたいの、とものすごく真剣に返されてちょっと困った。
「博士、他のも開けていい?」
「勿論構わん。全部お前のものじゃ」
「やった!」
まだまだあの子へのプレゼントは残っている。兄さんたちもあの子の反応を楽しみにしていたはずだ。僕もどんな顔をするか見たいから、次のプレゼントの包みに手を伸ばすあの子の姿を追った。
「あの子。あとの片付けは皆でしておくから、ウッドの部屋に行ってやりなさい」
「え、いいの?」
会話もひと段落したところで、博士があの子に声をかけた。
「ああ。そのまま泊まればよいじゃろう。準備して行きなさい」
「うん。ありがとうね、博士。みんなもプレゼントありがとう!」
あの子は散らかしっぱなしのリビングを気にしていたが、やがてもろもろのプレゼントを持って部屋を出た。
「ウッドもよいぞ。先に部屋へ行きなさい」
「あ、はい。ありがとうございます、博士」
今度は僕に声をかけた。
「うむ。…ウッド、がんばりなさい」
「は、はい?」
「端折って言えば、本番まですることが望ましい。やればできるぞ」
「…そう、ですか」
僕の肩をぱんぱんとたたいた。博士としては、僕にエールを送っているのかな。
「ごめんね、僕今日は先に行くね」
「おー任せな」
「おやすみ、ウッド」
フラッシュ兄さんとバブル兄さんが手を振ってくれた。みんな優しい。
兄さんたちが僕に優しく接してくれるのは、僕があの子に対してなにもしないと思っているからかもしれない。
兄さんには悪いけど、今までになにもなかったわけではない。僕にも同じような構造があるし、そういう精神プログラムが働く。おそらく、他のみんなとの違いは積極性にあるんじゃなかと思う(エアー兄さんだけは例外かな)。僕はただ自然な流れに任せるだけだ。
「あの子、どうぞ入って」
「ん。お邪魔するねー」
部屋に招き入れてあの子が前を通ると、いい匂いがした。ちょっとの時間しかなかったのに、ちゃんとシャワーに入ってきたんだ。
「座ってて。ちょっとお茶淹れるね」
「あ、お構いなく」
「はは、お構いしますよ。まあ、お湯いれるだけだけど」
僕はあの子にソファに座ってもらって、ポットを取りに向かった。
「あの箱ね、小物を入れられるだけじゃないんだ」
隣り合って腰掛けて、落ち着いた頃に僕はさっき開けてもらったプレゼントの話をした。
「ん、どういうこと?」
「左の横に穴があったの、覚えてる?あれはね、左側にオルゴールを入れるために開けたんだ」
「え、そうなの!?」
そんなことできるの!?ってあの子はすっごく驚いていた。うん、普通は想像しづらいよね。
「この前、街のお店でオルゴールを売ってるところをたまたま見つけてさ。いろんな種類があったから、僕が選ぶよりかあの子が見たほうがいいかなって思って、空っぽにしておいた」
「うわあ、ホントすごい、ウッド!わー今日だけで何回びっくりしているんだろう、寿命縮むかな」
「ええっそれは困るよ!縮ませないでよー」
そんな縁起でもないこと、言わないでほしい。そうでなくても僕とあの子の間には、いろんなハードルだらけなんだから。
「今度時間が合ったら、そのお店に行こうよ。サイズもいろいろあったから、この箱に入るのを選ばないといけないんだ」
「ぜひぜひ!そしたら博士にお話して、都合つけてもらおうね!」
「うん、そうだね」
楽しげにはしゃぐあの子が僕の隣にいることが、とても嬉しい。
「ウッド、わたしがあげたプレゼントは見てみた?」
「ううん、まだだよ」
「よかったら、今開けてほしいなあ」
あの子に言われて断るわけがない。小さめの箱を開けてみると、中にはボトルに入ったクリアな液体があった。
「ルームフレグランス、って書いてある」
「うん。なるべくクセのない香りを選んだつもりなんだけど…」
へえ、おもしろいものにしてくれたんだなぁ。
「試してみて、いい?」
「もちろん。このお部屋ならひと吹きくらいでいいんじゃないかな」
シュ、と霧状の液体を出すと、ほのかに香りが舞う。花の咲き始めみたいな、春の森の香りがした。
「お店の人にいろいろ言って混ぜてもらったから、何の香りだとかって詳しくわからないんだ」
「…でも、春の匂いだ」
「わぁ…やっぱりわかるんだ!そういうイメージで伝えたの」
実を言うと僕は、人工的な香料は今まで敬遠していた。だけど、こんな控えめなフレグランスがあったなんて知らなかった。
「ウッドは外が好きなの知ってるけど、お部屋にも居たくなるようにー、なんてね」
「本当に、前より居る時間が増えそうだよ。あの子、ありがとう」
…使うたびに、あの子のことを思い出してしまうだろうな。
「ウッド、座ってもいいかな」
「うん、どうぞ」
あの子は眠たくなってくると、くっつきたがるクセがあるみたいだ。僕の座るその上にあの子が来るようになったのは、博士にああ言われて何回目の夜だったろう。
「ウッドとこうしていると、なんか落ち着くなぁ」
僕の胸元にあの子が頭を預ける。落ち着くのは、僕のボディが木で出来ているおかげかもしれない。ヒトって、木好きだもんね(なのに破壊するヒトもいるんだよね…)。
「そう?僕も落ち着くっていうか…幸せかな」
「うん、わたしもいい気分」
僕は腕をまわして、あの子を後ろから抱きとめるような格好だ。やわらかいあの子の感触をたくさん感じて、いつも鼓動が速くなる。
「…キスしたくなっちゃう」
「キス?」
「そう。幸せも、嬉しいも、大好きも、ありがとうも、全部伝えられる気がするんだ」
素直に、そう表現した。
すると、あの子が不意にくるっと振り向いて、僕を見上げた。なにか、不安があるのかもしれない。
「ね、ウッド…わたしも、伝えられるかな」
「うん、きっと。」
そう言って、僕は穏やかに微笑んだ。あの子がほっとした表情に戻る。そういう顔のほうが、ずっといい。
そっと彼女を抱えて、僕と正面を向いてもらった。僕よりも遥かに軽いこの身体で、彼女は生きているのだ。…僕の、大切な人。
「…あの子、目…閉じて」
綺麗な瞳をずっと見ていたい気もしたけど、口づけるにはこのほうがよかった。
僕の気持ちを伝えられるように、ゆっくりだけど長い間、たくさんのキスをした。あの子も少しづつだけど応えてくれて、彼女の気持ちはこんな感じなのかなって、ぼんやりと頭の中で考えていた。
時折、ふう、はぁって息が漏れるのがとてつもなく色っぽくて、どんどん頭で考えられるスペースが侵されていった。
「あの子」
抱きしめたまま、名前を呼ぶ。
「離れなくっていいよ」
「…ウッド……」
「僕も、離れたくない」
声が掠れてしまったけれど、耳元だ。ちゃんと届いている。
あの子が、抱きしめ返してくれた。
…大丈夫、僕たちは伝え合える。
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