「うわぁ!ダイヤ形のペンダントだ!綺麗…」
包みの中身に見とれるの姿に、俺は目を細めた。
十数パーセントの確率から、彼女は俺のプレゼントを選んだのだ。
「これは…?」
「俺だ」
静かに、弟どもへ勝利の宣言。
「メタル兄かぁ…。うん、そんな気がした」
ありがとう、とは柔らかくほほ笑んだ。
「はー、メタルか…」
「兄さんなら…まあ…」
溜め息混じりの弟どもの声がセンサに反応する。公平なルールに基づいた結果である。文句をつける点はないはずだ。
「博士、他のも開けていい?」
「勿論構わん。全部お前のものじゃ」
「やった!」
引き続きはプレゼントの開封に勤しんでいた。弟どもと言葉を交わす彼女は終始笑顔だ。純粋に楽しんでいるのだろう。
「。あとの片付けは皆でしておくから、メタルの部屋に行ってやりなさい」
「え、いいの?」
会話もひと段落したところで、博士がに声をかけた。
「ああ。そのまま泊まればよいじゃろう。準備して行きなさい」
「うん。ありがとうね、博士。みんなもプレゼントありがとう!」
は散らかしっぱなしのリビングを気にしていたが、やがてもろもろのプレゼントを持って部屋を出た。
「…博士」
博士に視線を送ると、俺の言わんとしていることはすでに伝わっていた。
「うむ。任せたぞ、メタル」
「はい。では失礼します」
一礼して、俺も居間を離れた。
「お兄ちゃん、入るね」
「ああ」
入室した彼女をソファに落ち着かせ、少し話をする。茶も淹れたので、俺はリビングにいた時と同様にマスクを外したままにしていた。
「ペンダントは気に入ったか」
「うん!綺麗で、デザインも無駄がなくて、でもすごくよくって、えっと…」
「ふ…そうか」
ややオーバーに手振りを加えて、俺に伝えようとしているさまに笑みが零れる。非常に好感触のようだ。まあ、そうなるとは予測していた。
件の品は先程「部屋に来るなら俺が持っておく」と告げて、いったんから預かっていた。再び箱から覗くそのペンダントは、照明の光を受け煌いている。特別高価なものでもなかったが、さり気ない美しさと愛らしさを感じる装飾で、に似合うと思い選んだのだった。
「それ。つけたらいい」
「え、今?」
「ああ。」
折角だ、と俺はペンダントを取って、彼女の後ろにまわった。
「お兄ちゃんがつけてくれるの?」
「嫌か?」
「いや、ちがくて…。お、お願いします」
俺や他の奴と寝るようになってから、は不意に近づかれることに対して若干の警戒を見せるようになった。人間の防衛本能といったところだろうか。
ただ本気で嫌っていない(むしろ好意がある)ので、多少構えてはいるものの、拒みはしない。
「髪、少し上げろ」
「あっ、うん」
手で髪をまとめ上げると、白いうなじが現れた。…女のこの仕草は、いい。
ぐらりと意思が揺れたのを俺は自覚したが、ひとまず予定通りにつけてやる。無駄に首筋に寄ったことに、は気づてはいなかった。
「留めたぞ。鏡で見たらどうだ」
「そうだね、どっかにあるっけ?」
「あっちにあるだろう」
壁にかかる全身鏡を指差すと、彼女は立ちあがりそこへ向かった。俺もゆっくりと続く。
「わぁ…やっぱり素敵だ!お兄ちゃん、ありがとうね」
「ああ。見立て通りだ」
鏡を見つめながら、ペンダントトップを触ってがはしゃぐ。
なんと無防備なことか。その姿を見て俺が突っ立っているだけだと思っているのだろうか。…なにも考えていないに違いないが。
「ね、似合うかな?」
「似合っている」
「わっ…」
後ろから抱き締めたら、案の定に驚いたような声をする。体温がカッと上がったのが、装甲越しでもわかった。
「ずっと、そのままにしていればいい」
意味は二つあるが、は理解しただろうか。
耳元で低く囁くと、みるみるうちに紅くなって身体を強張らせた。彼女がここに来てから、一度も後ろを振り向いていない。…鏡があるから全て見えているのだ。
「…いい子だ」
鏡越しに俺に射すくめられ、は鏡から目を離せないでいた。
チェーンの繋ぎ目から、胸元にあるモチーフにかけてを指でなぞる。まだ冷たさの残る金属。じきにの体温が移っていくだろう。…もう、冷めはしない。
真ん中のペンダントトップに辿りついた俺の指は、そのまま少しづつ上へと動いていく。鎖骨の間を通るとき、が唾を飲み込んだのを触覚で感じた。
程なく顎に指がかかると彼女に横を向かせて、吐息がかかるような距離だった唇をのそれに重ねた。
「…っ!」
最初から深く舌を絡めたが、嫌がる様子はなかった。絡められるほどに応えることが出来るようになったのは、好ましい成長といえる。
「ぁっ…お、にいちゃん。ちょと、苦しい」
「…ああ、そうだろうな」
身長差からして、立ったままだと上を向かざるを得ないうえ、斜め後ろからと来れば当然だった。今度は身体も横を向かせ、俺も動いて対面する。
「頬、紅いぞ」
「うっ…仕方がないのです」
呼吸も荒く、恥ずかしさを感じているのだから、な。
たまにこうやって敬語が混じるのがおもしろい。
両手を繋ぐと、ぽかぽかと温かかった。
指を絡めて、俺は再びキスをした。先ほどよりも長く弄び、幾度となく唾液を往来させた。時折ぴくりと指が反応するのが可愛らしく、もう一回、もう一回とつい執心していた。
離れると、銀の糸が垂れるのが鏡に映った。の目じりには涙がたまり、今にも零れんとしていた。
「続きはベッド…だな」
ふ、とひとつ息を吐く。俺はの目線まで身をかがめてその雫を拭い、頬を撫でた。
片手はキスの途中から彼女の腰にある。…ないと、足元が不安な状態だった。
「来い」
「…うん」
ぼんやりと夢心地なの声音に俺は、いっそ横抱きして運んでしまおうかと思案をしていた。
☆★☆
―おまけの翌朝―
「ああ!お兄ちゃん、まだわたしのプレゼント開けてないでしょ!」
「そうだな」
「もう…。昨日あげたのに朝になっちゃったよ」
「お前に夢中だったから、仕方ない」
「えっ、…え」
「お前も俺に夢中だったから、しかt」
「う…うん仕方ないの、そうなのっ!だからほらどうぞこれ…っ」
「…チェーンか」
「シルバーのウォレットチェーンだよ」
「チェーン…いい選択だ」
「本当?よかったぁ」
「色々、使えそうだからな」
「お兄ちゃん…“ウォレット”チェーン、だよ?」
「色々使えそうだ…」
「そ、そっか…ははは…」