「ジェリービーンズ、キスチョコ、キャンディ…うわーいっぱい!お菓子の詰め合わせだぁ」
…勝った。ボクの勝ちだ。
がその包みを開けている途中から、ボクはほっぺたが緩みっぱなしだった。
「!それ、ボクからのだよっ!」
「あー、ヒートちゃんっぽいと思ったんだ!」
ボクっぽいって思った?それってどこからだろう。中身が見えてから?それとも開ける前から?
…前からだったら、はボクのが一番にほしかったってこと。そっちだったら嬉しいんだけど。
「さんざん食った上で、まだ菓子をやるのかよ」
「むっ、すぐ食べなくっても大丈夫なのを選んだもん!」
それ以前に使い道もないような、どでかい置物を買ってきたクイックにだけは文句を言われたくない。
「ヒート、をまるまるに太らせる気?」
「太りそうになったらボクが食べるからいいのっ」
「プレゼントなのに自分で消化しちゃうの!?」
バブルもウッドもうるさーい。勝ったのはボクなんだから、外野は黙っててほしい。
「ねっ、好きな時に食べてね、!」
「うん、ありがと!」
外野には絶対に向けないようなとびっきりのスマイルでに伝えた。今度一緒に食べられたら、なおイイ。
「博士、他のも開けていい?」
「勿論構わん。全部お前のものじゃ」
「やった!」
ボクの時間はここまでだった。だけどこの後でずっと独占できるから、まあ良しとしておく。ボクは心の広いエースだから、少しは外野にボールをまわしてあげてもヨユーだ。
「。あとの片付けは皆でしておくから、ヒートの部屋に行ってやりなさい」
「え、いいの?」
会話もひと段落したところで、博士がに声をかけた。
「ああ。そのまま泊まればよいじゃろう。準備して行きなさい」
「うん。ありがとうね、博士。みんなもプレゼントありがとう!」
は散らかしっぱなしのリビングを気にしていたが、やがてもろもろのプレゼントを持って部屋を出た。
「ヒートちゃん、後でね」
「うんっ、ボク待ってるね!」
ボクはぶんぶんと両腕で大きく手を振って、を見送る。くるりと振り返ってリビングを見るが、が消えたパーティ会場はイチゴの無いショートケーキみたいだ。主役がいなくなって、間が抜けていた。
「パーティもお開きじゃな」
「ボクもが来るまでに部屋に行かなくちゃ!」
「そうじゃな。片づけは他に任せて行きなさい」
「はぁい!」
片付けパス出来てラッキー!もし残ってもマジメにやったかは保証しないけど。
「じゃーね、みんなー」
「ヒート…熱くなりすぎるなよ」
「心配しなくても大丈夫、エアーおにーちゃん」
このイイ気分に水差さないでほしいんだけど。ま…クラッシュみたいに壊すシュミないから、どうにかなるんじゃない?
ボクの部屋に来たはバッチリお風呂上がりで、準備万端てカンジだった。ボクはボクで、ライター型のボックスを外して動きやすくしておいた。これで、飛びついても痛くはないと思う。
「こっち来てー、おイスにどーぞ」
「うん、ありがとー」
テーブルチェアにご案内する。にはウッドから貰ったハーブティ(食後だからね)、ボクは大好きなキャラメルマキアートを用意した。夜のカフェさながらに、真ん中にはガラスの器に入ったキャンドルを置いて火を灯しておいたら、かわいい!おしゃれ!とイイ反応をしてくれた。
「行ったことないけど、街のお店もこんな感じなのかなぁ」
「ボクもないから、わかんないなー」
セッティングを気に入ってくれたので、ボクはゴキゲンだった。と向かい合わせに座ったボクは頬杖をついて、宙に浮いた足をぶらぶらと泳がせた。
「ね…、今度こっそりここ抜けて、行ってみちゃう?」
「わ、楽しそう!あっでも、あんまり遅いと街でケーサツの人に止められちゃうかも」
「ボクがちっちゃいから?」
「んーわたしも、コドモっぽいしね」
この、ボクのボディは自分でもけっこう気に入ってるんだけど、たまにこういうことではメンドくさい。でもは、さり気なくフォローしてくれた。普段ニブスケの割に、けっこう気遣いは上手いんだ。ボク的に、の特に好きなトコ。
「ヒートちゃん、わたしがあげたプレゼントは…」
「これね、と一緒に見たかったから、開けるのガマンして待ってた!」
それは包みがきれいなまま、テーブルにあった。せっかくここに来るのなら、二人のほうが絶対盛り上がる。
「え、じゃ、開けようよ!」
ボクより楽しそうにしちゃって、カワイイなー。
勢いよく紙を破って両手サイズの箱を開けると、プレゼントはギンガムチェックのキャスケット帽子だった。ボクがかぶるモノ好きって知ってたんだ。
「わあ、帽子!おっきい箱で軽いから、何かなーって思ってたんだ」
「予想、当たった?」
「全然だった!でも、イイの貰っちゃったー。コレいつでも被れそうだもん」
デザインも素材も季節は選ばない感じ。黄色ベースなのも気に入った。
「えへー、ありがと!っ」
「どういたしまして。よかったら使ってね」
「もちろん使うよっ。お出かけのときは絶対被ってくから!」
「そう言ってくれるとわたしも嬉しいよー」
ほっこりと笑うを見てたら、無性に手を繋ぎたくなった。このポカポカした気持ちも、一緒に共有したい。
「ねえ、お隣に座っていい?」
「いいよー」
ニブスケ発動。まあ、まだイタズラは仕掛けないから気にしなくてもいっか。
だけど、ボクが隣り合った片手をきゅって握ったら、ちょっとドキッとしたみたい。
「やっぱね。あったかいと思ったんだ」
「ん?どうしたのヒートちゃん」
「たぶんねー、おんなじキモチだと思ったの。とボク」
「…そっかあ。そういうのも、嬉しいね」
「ね。」
は軽く目を閉じて、すう、と深呼吸した。
ああ…この空気が好きなんだ。
でも手を握ったことに満足したボクは、ちょっとづつ欲が出てきてた。自分でわかってるけど、悪いコだ。
握っていた手をすうっと引いて、瞳の見えるその前にキスをした。
目の前のボクの顔にびっくり、キスされたって気づいてびっくり。えっ、て声を上げて、自由なほうの手で口をおさえるの表情は、ボクにもっとイタズラしろと言っているかのようだ。
「えへへ、嬉しくってちゅーしちゃった!」
「もう、びっくりしたよ!」
いつもより可愛く言っておいた。これくらいで怒らないのは知っているけど。
「ねえ。ボクのあげたプレゼントはどうだった?」
「もちろん嬉しかったよ」
顔を近づけたまま、ボクは話す。
「ボクも大好きなお菓子だから、きっとおいしいって思うよ」
「うん。たくさんだから、ちょっとづつ食べるね」
「いらなくなったらボクにちょーだい?」
「あはは、いいよ!」
がくすくすと笑う。
こういう油断しているときにボクは悪いコトをしたくなるんだって、目の前にいても気づかないんだなぁ。…前からのことだけどさ。
「でも、先にこっちがほしいや」
「!」
もう片方の手も握って、ボクは二度目のキスをした。背がないボクが座ったまま唇を重ねるとなると、どうしても見上げるような体勢になる。仕方がないけど、気に食わない。
そんな気持ちをにぶつけたってイミないのに、無理くり舌を入れて攻め立てた。それでも感じてガクッとなりそうになったは、そっちの素質を持ってる気がする。
のそーいうところは大好きなので、ボクはどんどんノってくる。芯から火照るのがわかるのだ。がもし触ったら、ヤケドどころじゃなく死んじゃうくらいの高熱が渦巻く。
最後に離れるとき、真っ赤に腫れたの唇をペロリと舐め上げると、閉じたまぶたがぴくっと動いた。ボクのアイセンサはちょっと視界が広めらしいから、超至近距離でもバッチリだ。
「んふぅ…はぁ、ヒー、ト」
「うん。オイシイ、とっても」
でも…これで満足したと思ってないよね?
「ね、ベッド行こうよ?」
ボクの顔だけは無邪気だ。心の中は正反対。声は…少しトーンを落とした。
「っ……」
“弟”なボクに、は素直にウンと言おうとしなかった。だけど知ってる。…もうヒトリではいけないんだ。
「連れてってあげる」
真っ白なシーツの上と、もうひとつの真っ白なトコに。
…今夜って、ボクと、どっちのほうがおいしかったかな?
確実に言えるのは、これからはボクが誰よりもオイシイ思いができるってことだ。
ココロの中で炎が燃え盛っている。それはすでににも移ってるんだから、これ以上はいらない。
ボクはイスから降りて、ふうっとテーブルのキャンドルを消した。
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