「?どうぞ入って!」
「うん、お邪魔しまーす」
おれの部屋にが来てくれた。夜に来てもらうのも初めてだ。今日はおれにとって、初めてのことばかりになる。
彼女はパジャマ姿で、お風呂に入ってまだ間もないみたいだった。ほっぺはほんのり赤くて、髪も乾かしたての独特の感じだ。
ん?このパジャマの柄はいままで見たことがない。おろしたてかな。
「そのパジャマ、かわいいね!」
「ほんと?この模様、いいでしょ?まだ買ったばっかりなんだー」
とっても気に入っていたみたいで、は自分でソデの模様を見てうれしそうに言った。そして、シャツの裾のところを前に出して、おれにも見せてくれた。
「そうなんだ。に似合ってるよ」
「わ、ありがと!」
ついでにすき間からおへそも見えた。…やっぱり、おれにはパジャマよりもがかわいい。
「クラッシュのところにも大きいベッドが来たんだね」
前に来た時と違うのは、このベッドだ。10日に1回とはいえ、が来てくれるのだ。寝心地がよくないなんてことがあったら、博士に文句を言いに行くところだったけど…。
「うん、ふっかふかだよ!おれ、来たときからもうゴロンゴロンしてるんだー」
試しに寝転がってみたら、サイコーだった。
こういうやわらかい感触って大好きだ。おれたちにはないカンジで、いつまでもさわっていたくなる。
「一人のときでも使ってる?」
「もちろん!」
今まで使ってたソファよりも大きくって、うっかり落っこちることもなくなった。
「そっかそっか。よかったー」
「ん?…どしたの」
「なんかね、兄さんたちってデフラグに場所とか気にしない感じだったら、もったいないなって思ってたの」
クラッシュがそう思ってくれてよかったよ、と彼女が続けた。
たしかに…兄さんたちを思うと、そんな感じがする。こういうのを気にするのは、おれたちの中ではあとウッドくらいかもしれない。
「が気にしなくってもいいと思うよ。おれはこーいうのが好きだから、よろこんでるだけだもん」
そう、みんなキモチに正直なだけだ。
でも…それがに対してだと、話が変わってくるけど――。兄さんたちは“これ”が始まってから、を困らせたりイヤがらせたりしていないだろうか。…それがちょっと心配だ。
「、そろそろ寝る?」
「んー、そんなに眠くはないけど…」
「じゃあベッドでお話しよう!おれ、ふかふかのほうがうれしいから」
「いいよ、わたしもふかふか好きだからねー」
閉めそびれていたカーテンを閉じに窓へ行ったら、真っ暗の空の上でたくさんの星が輝いていた。
こんな夜までといられるなんて、夢みたいなことだ。しかも二人っきりでお話できる。…いやそれだけじゃなくて、もっともっと――。どうしよう、おれ…今日、幸せで死ねるかもしれない。
そのまま頭の中で夢を描いていたら、にハンドアームをくいくいと引かれた。
「ごめんごめん、なに?」
「ね。クラッシュも、装甲を外せるの?」
「うん、もちろん!…ってそっか、見たことないもんね」
はそれがすごく気になっているみたい。どうやって外すの?と目をキラキラさせていた。
「うーん…おれはべつに見せてもいいけど…」
「ほんと?!」
えーと、見せても悪いことはないよね?博士、ダメって言ってなかったし。さすがに素っ裸にまではならないし…なんとかなるよね?
最初に腕のところの装甲を取ってから、メットを外した。
今のおれは、ハンドアームに変えてもらってるからラクだ。他のみんなとちょっと違う形のメットは、お気に入りだったりする。
久しぶりに出てきた髪の毛は被りグセがついていて、ちょっとくしゃくしゃだった。近くにあった小さな鏡で格好をつけてからに見せたら、カッコいいよって言ってくれた。…うれしい。おれがの全部が好きって言えちゃうくらいに、もこれからおれの全部を好きになってくれたらいいなって思う。
自分で外すときは上から下に向かうのが決まりになっていたので、次は胸部だ。こっちはけっこうメンドくさい。
「……」
しかも…なんだか恥ずかしい気がしてきた。
大好きな子に、軽装になるのをまじまじ見つめられているんだから、当たり前か。
弱くなるところを見せちゃうくらい、とっても信頼しているってことなんだけど、は戦うとかそーいう次元にいない。わざわざ話さなくってもいいことだ。
胸の装甲が外れて、白い薄手のボディスーツが現れた。これでフットアーマーを取ったら、おれはまっしろしろになってしまう。
…どうしよ。先に上…脱いじゃっていいかな。
「…上のスーツ、脱いでもいい?」
「うん」
え、いいの…ホントに?
は恥ずかしがるそぶりが、全然なかった。
うーん、ここ何日かで見慣れちゃった、とか?どっちにしても、これってオンナノコとして、普通じゃないよね…?
それでも上を脱いだけど、ソワソワ落ち着かないまま、フットアーマーを外した。やっぱりはじっと見てて、なるほどーとか、こんな感じなんだーとか、たまに喋っていた。
……もしかしてって、おれたちとオンナノコとカラダのつくりが違うって…知らなかったりする…?
それ、今言っていいのかな。
…おれは勉強とかを教える役じゃないから、わからない。でも後で、上の兄さんたちやフラッシュに怒られたくはない。だって…すっごいこわいんだ。
「え…えっと、おれ服とるから、ちょっと待ってて!」
「ん?わかった」
ここが、おれの限界だった。なんかもう…こっちのほうがムリだった。
それでも、今おれとはベッドの中に二人きりでいたりする。横のランプの明かりがほんのりとおれたちを照らして、すてきな雰囲気だ。
隣り合って座って、ふかふかの掛け物って幸せだよねって、そんないつもと変わらないような話をしながらも、おれはちょっとづつ緊張し始めていた。
だって…これは、すごい機会だ。いままで出来なかったことができるんだから、おれはしてみたい。
バッとの手を取って、おれは勢いをつけた。
「おれね、のことが大好きなんだ…!」
こんなこといつも言ってるのに、二人だけで、彼女を目の前にして言うってだけで、ぜんぜん違う気がしてしまう。
「ありがと、クラッシュ。いつも言ってくれて、すごく嬉しい。」
ふわって笑うは、緊張してないのかな。
「…はおれのこと、好き?」
「うん。わたしも大好き」
大好き、って返してくれたとのキョリは、数十センチだ。ああ…もうひとつ、おれは言わなくちゃいけない。
「だからね、おれ…ちゅーしたい」
「うん、いいよ」
「うん。…えっ」
すごく…あっさりオッケーだった。思わずおれは目をパチパチしてしまった。
あれ、なんか、のほうが実はオトナ?おれ、ちょっとカッコわるい??
でも、ドキドキするものはドキドキする。だって、初めてだ。
――キスって、どんなものかな?
「ファーストキスって、レモンの味がするらしいよ!」ってヒートが前に言ってたけど、ほんとかな。
それも…もうすぐわかるんだ。だっておれ、ちゅー、しちゃうんだからね!
心の中で「ドキドキおさまれ!」ってカツを入れて、おれからに近づいていく。
彼女は目を閉じた。おれはホッとするような、もっとドキドキするような、うー…どんどんよくわからなくなってきた。
とのキョリ、数センチ。…なんだろう、ほんの少しのはずなのに果てしなく長い気がしていた。もー…がんばれ、おれ!