全員集合した日から6日目。昨日はのお休み日で、今日がおれの部屋に来てくれる日。
ホントはもっともっとと一緒に居られたらいいって思うけど、ルールはルールだ。公平に、そしての負担になったらいけない。
だけど…。あのときは博士の話を聞いても、ぜったいウソだと思った。
ロボットのおれたちにそんなことができるなんて、考えたこともなかった。
おれはキカイで、はニンゲン。これは、絶対に変わらないことだ。
でも…確かに言われてみれば、のことを思うとドキドキして、それ以上のことをしたくなってくる。
おれがにできることはまだあったんだ。それは素直に嬉しかった。
だっておれは、生まれたときからのことが大好きだ。…以外でこんなに好きになることなんて、ありえない。(博士に対する好きとは、またカンジが違うし。)
生まれてすぐにに会えて、おれはホントに幸せだった。
…これはもう、“運命”としか言えないと思ってる。それくらい…出会ったときは衝撃的だった。
おれの生まれた日。
研究室で目覚めると、おれのマスターである博士と、4体の兄さんが歓迎してくれた。
カッコいいクイックと、優しそうなバブル、マジメっぽいエアー、そしてクールなメタル。自己紹介されて、みんなと楽しくやっていけそうだと思った。
メタルの背には、人影が隠れていた。博士と彼に促されて、緊張ぎみに出てきたのは人間のオンナノコだった。
「はじめまして、クラッシュ。わたし、って言います。…よろしくね?」
「!!……っ」
そのとき――言葉が出ないくらいに、おれはびりびりした。
「えっと…クラッシュ?」
じっと見るだけのおれに、彼女はもう一度話しかけていた。
おれは…反応が、追いつかなかった。
「……」
その名前。その容姿。その声。その匂い。…ぜんぶだ。
――そうか、彼女が!
「。っ!」
「ぅわっ!?」
作業台から飛び降りて、おれは彼女に抱きついた。…そうしなければならない、そんなキモチが急激に爆発していた。
「お、オイ!」
「クラッシュ!?」
「どうした、またかッ」
「……攻撃意思は、ないようだな」
「…想定以上じゃな…まあよい」
まわりの声なんて、センサに入ってこなかった。
おれの世界には――だけしかいなかった。
「おれ、が大好きだ」
抱きしめて、まずこう言うべきだと、おれの回路が頭の中から叫んでいた。
「え、…え?」
「これから、もっともっと好きになる」
「すっ……」
このときのの表情は、今でもハッキリ覚えてる。混乱してて、驚いて、戸惑って……何もかもが、ないまぜだった。
「おれ、クラッシュマンだよ。よろしくね、っ」
こういうキモチを伝えるときは、ハグして…チュー!
…データを参照すると、そうレスポンスがきたから実行しようとしただけなのに。
「ま、ま、待ちなさい!!」
エアーに引き離されて、急に現実に戻った。ひどいことをする、と思った。
「残念、クラッシュ。そういうのは誰も見てないところでするのが正解」
「へえ、そうなんだ。バブルありがとう!」
なるほど、ルールがあるのか。さっそくおれは一つ覚えた。
「ふふ。クラッシュ、みんなと仲良くやってけそうだね」
「もちろんだよ!」
このときに初めてがおれに笑ったんだ。笑顔は幸せな気分になる、と覚えた瞬間だ。
「……」
一つ上の兄さんは、このときは不思議とあまり喋らなかった。まあ…エアーのほうがよっぽど無口だって、あとあとわかったけどね。
「ふんふんふーん」
おれはこのあとが楽しみで楽しみで、自然と鼻歌が出ていた。
「…クラッシュ。食事中だ」
今日はエアーがお仕事だから、メタルに注意されてしまった。
メニューはフラッシュの作ったナポリタンスパ。おれの大好物だ。よけいに嬉しくって、ゴキゲンでフォークにパスタを巻きつけほお張った。
「食いながら鼻歌って…ヘンなとこ器用だなおまえ」
クイックがまゆをひそめておれに言う。
「うぇ?そぉかな??」
「…クラッシュ。口に物が入ってるだろう」
あ。メタルの眼が怖い。この場の平和のためには、やめたほうがいいみたい。
「んぐ。…ゴメンね」
「よろしい」
メタルはお上品にパスタを口に運ぶ。…おれはこんな食べ方じゃ、おいしいとは思えないなぁ。
はというと、ここまでの流れを楽しそうに見ていた。話がひと段落ついたと思ったのか、おれに話しかけてくれた。
「クラッシュ、口のまわりがすごいオレンジ色してる」
「えっホント?はずかしーっ」
ソースのせいだ。おれは急いでペーパーで拭った。
「これでだいじょぶ?」
「うん。キレイキレイ」
クラッシュっていつもおいしそうに食べるからいいよね、って言ってくれた。褒められた気分になって、おれはニッコリしてありがと!って答えた。
あとでおれの部屋に来てね、と言って、いったんとリビングで別れた。
部屋に向かうその途中から、おれはいろいろ考えていた。
…そういえば、おれはにちゅーすらしたことがなかったんだ。
いちばん最初の日にバブルが言ってた、誰もいないとこに二人になることが、あんまりなかったからだと思う。
それに、みんながいるときにぎゅーってするのはなにも言われないけど、ちゅーするのはなんかダメみたいな雰囲気がいつもあった。
そのことを前に博士に聞いたら“暗黙のルール”だって言ってた。
みんなのためだから、みんな何も言わないけど、やっちゃダメなことだって。おれたちは「家族」だから、今は家族として最大限に愛しなさいって、そう言ってた。
けど…これからはそうじゃないって思っていいのかな。
おれたちは家族だけど、ほんとは家族じゃない。家族じゃないから、博士はこーいう命令をしている。
だから――たぶん…いいんだ。きっと、そういうことなんだろう。