03.柔婉 #1



あれから3日、経った。
おれはと二人きりになれることが嬉しくて、待ち遠しく思っていた。
いつもだと、おれは特殊環境の仕事ばかりなうえ、設計からして人間と同じ生活を送るのはデメリットばかりで、はおろか博士や兄弟たちともなかなか話す機会がない。皆と違って“偶然”会うなんてことは無いに等しいから、はたまにおれの活動区域にまで来てくれることもあったけど、博士公認で仲良くなれるなんて降ってわいたような幸運だった。
10日に一回だろうがなんだろうが、おれにとっては喜ばしい。二人の兄がこの二日でどう扱ってきたかなんて、おれは別に興味はわかない。まあ…予想はつくけれど。

ただ昨朝も今朝も、の様子はしっかりと見ている。機嫌は良好のようで、自身はこの状況を楽しんでいるみたいだ。
めったなことをしていない限りは、現状はただのお泊まり会なわけで、兄たちがへまをするとも思っていない。本音のところではいろいろ葛藤しているのかもしれないけれど。そこは突っ込んじゃいけないところだろう。お互いのプライベートゾーンなわけだし。
あえて一つだけ指摘すると、兄たちはおれに言わせれば…頭が固すぎるのが難点だ。メタルはいかにも機械機械してて、エアーはいつも常識でガチガチだ。もっと在るがままに物事を捉えられないものか…と常々感じているけど、これは博士の性格付けも影響しているんだろう。でもそれで少なからず損をしているというのは確実だと思う。兄に生まれたばっかりに損なこともあるってことだ。

さて、おれはどうしようか。
博士の指令を思い返す。要するに、一線越えなければ何やってもいいわけだ。の嫌がらない範囲で。
うーん。かなり自由度が高いぞ。自由すぎてどうしたもんかと迷ってしまう。


ああ。迷いついでに蛇足をひとつ。
いい機会?なのでおれとの馴れ初め…もとい、ファーストコンタクトがどんな感じだったかってことを説明しておくと。
博士がメタルと一緒に闇市で女の子を買ってきたことをエアーと一緒に聞いたのがまず最初。で、その頃までに造られていた兄弟全員に会わせようってことだったんだけど、できたばかりだったクイックが調整不足だったためにエアーと二人で博士の研究室で会った。博士に促されては自己紹介し、反射的にエアーが自己紹介を返した。それにおれも倣い、これからよろしくと挨拶。
それだけの、あっさりしたものだった。

おれはエアーのように一目惚れしたわけではなかった。
傍から見てもわかるくらい動揺しているエアーが理解できなかったし、こんなぼろぼろの少女を保護対象にするなんて博士も酔狂なことだと、ぼんやり考えていたくらいだ。
惚れ込むということができるほど、おれの精神中枢は発達していなかったのかもしれない。
しかし、それも一週間ほどで変わってしまうから不思議なものだ。
おれ自身の精神は未熟な状態にあったが、初期段階から周りの気持ちを察知することには長けていた。そこで気付くのは、メタルのへの視線もエアーと同様であることだった。保護対象というだけではない、特別な気持ちがそこにはあった。
博士に対する気持ちと似て異なるものが兄たちにはある。だがおれにはない。
それがとても気になったおれは、博士に聞いてみた。
のことをもっと知れば、きっとわかるだろう」。意味をわかりかねたが、とにかく兄たちの隙を見てと話す機会を作ろうと努力した。
いうなれば、おれは恋に恋するところから始まったのだ。

初めは単純に、人間の女の子と接するのが新鮮で楽しかった。の知らないことを教えたり、逆に思いもしないような反応を返されてこっちが学ぶこともあった。
すると、兄たちはおれを警戒するような素振りを見せた。意味がわからなかったが、数日後に自分が反対の立場になったとき、理解してしまった。
のことを大切に思っている。自分の手の中におさめていたい。自分と一番親しくあってほしい。そんな気持ちが心に渦巻いていることを。
そして、それはクイックが初めてに会ったときに、確信に変わったのだった。
そうか…これが――。


…真面目に恥ずかしい話をした。普通のおれなら絶対にしない話だ。
閑話休題。
そして今に至るまで、ここの兄弟の気持ちはみなへ集中している。すごい想われようだ。博士の思惑がああだった以上、ここに来たイコールそういう宿命だったと言えるだろう。
そしてその女の子は恋愛という概念をわかっていないときた。ここに来て初めて一般常識から家族愛から全てを構築された、文字どおりの箱入り娘だ。
要するに一般的なパターンは通用しないといえる。返して言えば、そういう部分すらおれたちで自由に構築できるのだ。
……本当に自由すぎる。
まあ、これはおれたちの考えかたそれぞれで、迷いない奴もいれば選択肢を絞れる奴もいるんだろうが。
おれはあまりカタい考えにはとらわれないほうなので、こういうときは逆に難儀する。
そういう時はだいたいこう結論付ける。
「思うがままにすれば、なるようになる」ってね。
ま、これが一番後悔が少ない方法だろ?


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