01.兄役 #1



光栄なことだ。
博士は俺を最初に選んだ。当然、なのかもしれない。
博士の純製作ロボット第一号であり、博士の手足であり、代弁者。いわば分身のような存在。それが、俺<DWN.009・メタルマン>だ。

事実、昨夜に博士が言わんとしていたことは手に取るようにわかった。
最初こそ驚いたものの、一つ納得がいけばあとはパズルの穴がすべて埋まったかのようにすっきりしたものだった。
生まれおちたときに生殖機能があったときは、博士があまりに人間の男性に近づけようとしたためかと思った。俺が何度不要だといっても頑として改造しなかったのは、こんなところに伏線があったのだ。
だからなのか。俺と共に闇市に行ったときにを買ったのも。
の世話をまず、俺にさせたのも。
少しでも警戒心を解くために。信頼感を得るために。

俺はクラッシュやヒートと違って、人当たりがいいほうではない。口数が多いほうでもない。ただ、博士がと出会った時点で存在していた4体の中では、俺が適任だった。
性格的に堅すぎるエアー、生活環境が特殊なバブル、出来て間もないクイックとくれば、稼働キャリアの最も長い俺が選ばれるのも頷ける。
闇市でを買った時も、わざわざキープしてから翌日に俺を連れて買ったのだ。俺が居る時に買わんと意味がない、と行く道すがらに博士が言っていたのを思い出した。
コガモが最初に見たものを親と思う「刷り込み」に近いものがある。「まっしろ」な彼女にとっては博士が全てで、俺がそれに次ぐ存在だった。俺は研究にこもりがちな博士のかわりでもあったから、てき面だった。はすぐに、俺がロボットの中のリーダーだと認識し、慕い、ついてきた。
俺がまったくもって「長男らしい長男」であるから、その後は博士にとっても計画通りだっただろう。

弟どもが喧嘩をして仲裁に入ると、は必ず俺の肩を持つ。始終を何も見てなくても、俺が正しいというのだ。たとえ俺とエアーの意見が分かれた時でも、だ。(ところが俺と彼女で意見が分かれた時は、彼女は譲らない。人間の面白い一面だ。)
素晴らしい信頼関係。それが今夜、今後のために準備されていたとは――。


夕食はできる限りの「家族」――ここでは博士ととDWN――が揃うように言われている。今夜は博士以外はみな揃っていた。
今になってDWN全員と顔を合わせたが、昨日の一件のせいか弟どもがいつもよりも静かにしている。も不思議がって俺に尋ねるが、「そんなことないんじゃないか?」と珍しくスマイルサービス付きで言ったら、何の疑問も持たずに「そうだよね!!」とうれしそうな声が返ってきた。俺はが、俺の笑顔に弱いのを知っている。
その後は今日勉強したことについての話題に終始した。弟どもの様子も、もう気にならないようだった。

今日の皿洗いは俺の担当だった。手伝いをに頼むと、しょうがないなあと言いつつも皿を拭き始めた。よくある風景だ。
「なあ、博士から夜のことは聞いたか?」
さりげなく話題を振る。居間に残っていた数人の弟どもは集音レベルをMAXにしたことだろう。
「うん。さっき聞いたよ。寝るとき、メタ兄の部屋に行けばいいんでしょ?」
「そうだ。他に博士は何か言ってたか?」
「明日はエア兄で、みんな順番こだって言ってた。なんか、面白いイベントだよね」
知識がない女にとってはそんなところだと思う。予想を裏切らない。
「そうか。枕、忘れるなよ」
「忘れないよーだ!メタ兄は、コドモ扱いしすぎ!」
皿洗いを終わらせた俺はその声を背にして、ひと足早く自室に入った。


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