只今お仕事中! 〜メタル&フラッシュ〜

Apparently, METAL and FLASH are working now.


メタルに呼ばれた久々の外出任務での、俺の仕事は解錠だという。
近頃流行りのデジタル制御は現場まで行かないと容易に崩せないので、ソッチ方面に強い俺が付いて行くことになったわけだ。
俺なら、現物を見れば1・2の3で大抵は解除できる。
「フラッシュ」
建物の裏口を前に、チラリとメタルが俺に目を遣る。待ってましたとばかりに、俺は満点回答を述べた。
「ああ。そこはハック済みだ」
「了解、突破する」
ツーと言えばカー、ってな。ま、事前の準備は怠らない主義なモンで。
…しかし最初の入口がこのユルさというのはどうなんだか。ここの主は力入れるところを間違ってねえか?


「…先回り、か」
最後の電子ロックもちょちょいと解除し部屋に入ると、居ないはずの人影が複数。お相手もただの阿呆が揃ってるというわけではなかったようだ。
「お忙しいとこ、俺らの相手してくれるなんて嬉しーなァ」
横目に相方を見やれば、怯むどころか目を細めて、相手を値踏みしているようだった。
ジョー以下のロボットと、ちょっと体術に優れているレベルの生身の人間。数だけは多いが、歯応えのない布陣だ。しかもシグ・ザウエルにグロック…って、俺ら相手にハンドガンとは。ずいぶん低く見られたモンだ。
「んじゃ、ちょっくら逝ってもらうんでヨロシクどーぞ」
それに合わせてやろうと舐めきった挨拶をしていたら、「さっさと殺れ」とせっつかれた。
「へーへー仰せのままに!」
…今日のお兄サマは若干短気のようだ。

戦力差は歴然だった。だが足が出るわけにはいかないので、面倒だが始末しなければならない。
「イイ顔だなァ!俺が楽にしてやんぜ?」
レベルの違いを悟った瞬間の表情ってのは最高だ。もう少し甚振りたいところだが、あいにく時間を割けない。一番苦しむところに撃ち込んで次にかかる。
「…ククク」
俺の対角線上には、頬のマスクに一筋の紅い線を伝わせているメタルが居た。返り血はほんの僅かしか彼のほうに来ない。巧く切れ過ぎているからだ。
瞳孔を開いて低く喉を鳴らすそのサマは、快楽殺人者を連想させる。
マーダー、いやシリアルキラーか。…俺も似たり寄ったりだろう。

「メタル!データ取ったか」
暫く俺が掛かっている間に、メタルはデータの入った記録媒体を探していた。
「そこを掃除したら終わりだ、ッ…不意打ちのつもりか?甘いな」
振り向いて、一発。空いた手で記録ディスクを俺にかざして、ミッション・コンプリートってか。まったく、愉しそうにしやがって。
ま…二つにキレる運命だったんだ、オッサンはせめて天国に行け。お祈りくらいはしてやってもいい。
「さすがお兄サマ、やるねェ」
「黙れ」
…俺にも飛んできそうだから、これくらいにしておくことにする。


お相手は全員あっさりと召されていった。この俺でも、驚くほどの弱さだった。
「お前と組むと仕事が早くていい」
「…そいつはどーも」
今回が雑魚過ぎただけだろうが、珍しいメタルの褒め言葉は有り難く頂戴しておいた。
「片付いた。帰るか」
鉄と燃料の臭いのする一室には、もう俺らの声しかしない。
メタルは俺の返事を待たず、スタスタと出口へ向かっていた。
「何だ…やけに急ぐな」
俺はそれが一番引っかかっているのだが…。
置いて行かれないように、後を追う。

呟きが聞こえたのだろう。彼は歩みを止めずに、さらりとこう言った。
「今夜は俺が食事当番だ」
「…はぁ?!」
そんなことで急いでたのかよ!
この長兄は…背を向けたままで、さも当然というように告げないでもらいたい。
「仕事入ってんだから、そこは代わっとけよ…」
一気に脱力した。もう一仕事増えたからかと思ったじゃねェか…。

「…フラッシュ。」
そんな俺を知ってか知らずか、先を行っていたメタルがふいに振り返り、真面目な顔で返してきた。
が待ってる。」
「……」
…あー。お兄サマはあいつ絡みなら、仕事があろうとなかろうと予定を変える気がないってワケですか。
「……帰るか、うん。」
何とも言えない暫しの間だったが、俺が口を開いて終止符を打った。
「そうだろう。もっと急いてもいいくらいだ」
結局のところ――あいつの名前を出されたら、俺も従うほかないのだ。

外では日が傾きかけている。戻る頃には星が空を賑やかしているだろう。
煙草が吸いたくなってきたが、この調子では彼が一服を許さないことは目に見えている。
気が紛れないかと、俺は空を見上げた。
…俺にはすでに、手際良く料理を作るメタルの姿が見えるようだった。




(…振り回される身にもなれよ。アンタがの名を出しちゃ、最凶だろ。)


(予定は狂わせない。仕事は想定時間内、調理時間も計算済みだ。必ず間に合う。)

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彼らは冷静に戦闘を愉しんでいそうですが、タイプは真逆だと思います。
メタルは即死する急所を狙い、フラッシュは最も悶死する場所を狙う。
メタルは能率主義、完璧主義。フラッシュは、持ち得る限りのイヤらしさをフルに出して戦っていればいい。