今日はなぜかバブルと一緒に仕事をすることになった。
コイツは留守番か単独行動が多いから、考えてみても二人で組むというのは初めてかもしれない。
「クイック、抜け道はこっち」
「マジ?助かるぜ」
バブルは水がある所でないと不利だが、情報集めとナビ役は得意としていた。確実に潰していかないといけない今回のヤマには打ってつけだったわけだ。
「で、どう行けば一番早いワケ?」
「それは――あ、前」
振り向いたら警備ロボットがいた。バカみたいに侵入者発見、と何度も…あーしつこい!
「るっせ!とっとと消えろッ」
「おお!さすが〜」
ブーメランが戻る頃には倒れる物音。こんなの当然だろ。
「お、やっと地下水路発見だ」
しばらく歩くと、バブルが口を開いた。
連れてきたのはコレがあるせいか。やっと意味がわかった。
「おれはこの下から潜って偵察してくるから、この先の照明灯の前で待ってて」
「了ー解」
「あと、ワンコの形したロボットがいても攻撃しちゃだめだよ。“呼ばれる”から」
「わかったから、早く行ってこいよ」
だめだからね、と念を押してバブルは水の中に消えて行った。
何度も言わなくても、それくらいわかるっつーのに。
「…あーおせえええ!何やってんだアイツ!」
オレはずっと戻るのを待っていた。壁に背を預けて腕を組み、…もう何分待ったかは数え忘れた。
イライラして、右足が勝手にリズムをとる。
タン、タン、タン…。
「ハッ、ハッ、ハッ…」
…そして目の前で、オレに合わせてさっきからシッポ振ってるコイツは何だ?ウザくて仕方ない。
「だーもう!おまえ黙ってろ!」
大型のロボット犬に、ゲンコツを食らわしてやった。
途端、ロボ犬の目の色が赤く点滅した。
「アオーーーーーン!」
「…るっせー!何だコイツ、近くで吠えやがって!」
「うわー…クイック、やっちゃったね」
うるさい遠吠えの後に、待っていた兄の声が届く。
「おっせーよ!何してたんだよ」
でもロボ犬がやっといなくなった。これでせいせいする。
「偵察のつもりが、いきなり当たり引き当てちゃって。仕方ないから潰してきちゃった。」
「ハァ!?オレの出番はナシかよ!」
こんなに待ったのに、そんなオチかよ…。
「いやぁ…そうでもないよ」
バブルが指差すその先から、大量の追っ手が来る足音が聞こえた。
「ワンコに攻撃しちゃだめって言ったのに…盛大にやってくれたね」
「たくさん掛かってくるっつーことは、単体じゃザコだろ。…下で待ち構える」
想定外だったが、見せ場ができて嬉しいくらいだ。こういうのがないと仕事をした気になれない。
「おれ、こっちで潜っててもいい?」
「好きにしてろよ。ヘマできるほどのヤツが来るとも思えねーし」
バブルが文字どおり引っ込んでても、オレ一人で余裕だろう。
対人、対物、オレはなんでもいい。来たところで、次の瞬間にはマトモに機能できるヤツはいなくなる。
しっかし…よくこんだけのザコを持ってたもんだ。数並べるんじゃなくて、イエローデビルクラスを一匹置くほうがよっぽど手ごわいと気づけよ。
「あークソ、キリねーな」
バブルは相変わらず水の中で、オレが戦ってるのを見てるだけだ。適材適所ってやつだから、別にとやかく言うことでもない。
「きゃークイックさーん、がんばってー」
…だからって、気のない応援はいらねーよ!
「やーカッコよかった。やっぱクイックは戦闘時がいちばんカッコいいね」
仕事を終えた帰り道。陸をゆっくり歩くバブルがオレに話しかけてきた。
「…ホメてもなんもねーぞ」
「期待してないから大丈夫だよ?」
半分隠れた顔でもわかるくらい、にっこりしてそんなことを言う。
「……オレはおまえが一番わからねー…」
マジで掴みどころのない兄貴だ。…得体が知れない。
「でも…クイックはにいちばんイイトコを見せられないから、損だね」
「…あ?」
を話題に出されたので、オレはつい先を行く足を止めて振り返ってしまった。
「このアドバンテージがないのは大きいよ。おれらにとっちゃラッキーだ、本当」
要するに――オレが戦闘しているところをアイツに見せないのは、オレにとって損だ、と。そういうことか。
…ンなのは、とんでもない話だ。
「…アイツにこんな姿は、見せられねーよ」
「うん?」
言ってる意味がわからなかったらしく、バブルは曖昧に返事をした。
今のオレの姿。ススだらけで、装甲には細かいキズが入ってて、相手のオイルと血がベッタリ付いている姿。
オレは、ボンヤリ生きているアイツには絶対見せたくない。…それでも、もし――。
「見せる時がきたら……それはあの“家”が死にそうな時で、目の前でアイツを守るときだけだ」
そんな時があってはならない。だから、見せられない。
「…うわ、カッコいい。やっぱそういうセリフはイケメンに限るねえ」
「チャカすな、バカ!…もう帰っぞ!」
なんだか無性に恥ずかしくなってきて、オレはさっきよりも早足で歩きだした。
「はいはい」
後ろでバブルが応える。オレに離されないように歩みを早めたようだった。
水路から帰ったほうが早いだろうに、まだオレと話でもしたいのだろうか。…やっぱりコイツはわからない。
仕方がないのでオレは少しスピードを緩めて、バブルが来るのを待ってやった。