「今日は、腕によりをかけた」
「わ、すごい…!これ、何ていうの?」
「この前菜は、フレッシュサーモンのディル風味・ルビーグレープフルーツ添えだ」
「…で、でぃる?(どんな味付け??)」
「そしてこれは、ポロネギとポテトのポタージュ・オレンジグランマニエの香り」
「ぐらんま…?(オレンジおばあさんが煮え…?)」
「メインディッシュには、ラングスティーヌのカネロニ・ポルトのクリーム煮を用意してある」
「…え?え??(…何もかもわからない!)」
「とにかく食べてみなさい」
「…おいしい!こんなの、初めて……食べたよ」
「デザートは、楽しみにしていろ」
「うん!どんなのかな?(お兄ちゃんが出すんだもん、絶対おいしいよね)」
「…最後のお楽しみだ(甘いかどうかは…お前次第だろうな)」
「…また、これ?(毎回出されるんですけど…!)」
「何を言う。大豆とひじきの煮物はだな、人間に必要不可欠な栄養素であるたんぱく質を多く含み、さらに不足しがちなカルシウムと鉄分、そして食物繊維も豊富だ。またプラス食材として、緑黄色野菜の人参を入れることでβカロチンの摂取ができる。さらにローカロリーの蒟蒻を入れれば満腹感も増し、体重増加の懸念も減る。従って…」
「エアー兄さん、わかった。わかったから(…それも毎回聞いているよ)」
「そうか、なら遠慮せず――」
「でも…飽きた。」
「なに」
「もうムリ。限界。(本当にイヤになってきた…)」
「…なん、だと」
「これ以上出されたら、兄さんのこと一生キライになると思う」
「そっそれは…!(どうしてそうなる!?)」
「ごちそうさまでした」
「ま、待ちなさい、まだ残って…!(何故だ、俺は良かれと思って…!!)」
「煮込めばだいたい食べられるでしょ?」
「そうだね(…そうだけどさ)」
「イモとかネギとかは、形もなくなるし。神経質に切らなくってもいいよね」
「…まあ確かに(バブル兄さん、楽したいだけなんじゃ…)」
「薄味にして、後から好きなタレとかソースを各自で使えば味の好みの心配もいらないしね」
「あ、それはいいね(みんなの好みはバラバラだからなぁ)」
「そうそう。…ね、鍋モノっていいでしょ?」
「んー…いいかも?(一理、あるかな)」
「冬はみんなで鍋つついてさ、夏はカレーで汗かいてさ」
「あぁ、そういうの好き!兄さんの言うとおり、鍋物もいいね」
「でしょ?あーよかった、嬉しいよ(…ホントはあんまり得意じゃないから、そうしてるだけなんだけどね)」
「は?チンすりゃ出てくるだろうが。」
「そんなの誰でも出来るよ。作るの、ちゃんと!」
「なんでオレがそんな事しなくちゃなんねーんだよ」
「…食べてみたいんだもん」
「し…しゃーねぇな、ちょっと待ってろ!」
「…外側だけ黒焦げなんですが」
「強火で焼かないと中まで焼けねーだろ」
「生焼けなんですが」
「火力がないのがわりーんだよ」
「クイック…」
「ンだよ」
「…わたしが悪かった。ゴメンナサイ」
「ハァ?なんで謝るんだよ!?」
「いや…その…(今度、基本だけでも教えなきゃダメだ…!)」
「うーん、おっかしーなー」
「クラッシュ…これは…(ひ ど い)」
「なんかケシズミになっちゃった。」
「…えーと、焼きすぎちゃったんだね」
「そうなの?」
「(わかってない…!)そ、そうだ、スープは出来た?」
「うん!はいどーぞっ」
「これ…すごく、大きい…」
「あ、肉はブロックのまま入れたんだ!だから、ひとり占めできるよ!」
「…わあ、うれしいなあ。クラッシュ、野菜もかな…?」
「野菜は全部切ったよ!えーと2回くらい!」
「へ、へえ…(切る回数足りなすぎる…絶対半生だ)」
「…ね。早く食べてみて?(ニコニコ)」
「……(た、助けてー!)」
「ほら、ジャーマンポテト。このベーコンは結構ウマいぜ」
「あ、ほんとだ。いつもと違う!」
「この前、街に出た時にいい店見つけたんだよ」
「フラッシュってそういうの発見するの上手だよねー。あ、これって何?」
「あぁ、タイムな。あとこのローズマリーを少し入れるとイイんだよ」
「ハーブもパセリだけじゃないんだ!どうりで…」
「簡単に出来る料理でもな、ちょっと足したり一手間加えるだけで変わるっつうことだ。覚えとけ」
「…なんでも作れるくせに、こんな簡単な料理で負かされるなんて…!」
「お前もまぁまぁ、上達したんじゃねーの?…パスタの茹で方」
「茹で…っ!ちょっと、味にコメントはないの!?」
「味は…また次な(悪くはねェが、敢えて言わないでおくか)」
「フラッシュ!それどういう意味!?」
「おー恐ぇ顔しちゃって…(馬鹿、アルデンテが上手く出来ンのはスゲエんだぜ?)」
「えへへ、今日はトクベツだよっ!どーぞ!(他のヤツの分なんて作りたくないモンね!)」
「初めてとは思えない!すごく上手だよ」
「ホント?やったあ!(ホンキ出すのはキミの前だけでじゅーぶんなの!)」
「もっと、いつも作ってくれればいいのに」
「え〜それはダメだよ」
「どうして?」
「だって、かわりに作ってくれるキミの手料理が食べられなくなっちゃうじゃん!」
「…わたしの?」
「ボク、大好きなんだもん…キミの作るゴハン(…を作ってる姿から全部含めて)」
「え、そんなに上手でもないよ…?」
「ホントはいつも食べたいくらいなのに…(いまだっ、ヒート必殺・涙目アタック!)」
「あっ…わ、わかった!わたし作るから!(そんなことで泣かないでー!)」
「ホント?…よかった!やっぱり大好きだよっ!(ま、計 画 通 り だね)」
「ウッドが作ると、いつも知らないものが入ってるけど…これ何?」
「あ、これはダイコンの皮だよ」
「皮!?」
「うん。少し厚めに皮をむいて、せん切りにしたの。皮でもおいしいでしょ?」
「食感が普通のダイコンと違っていいね。こんなキンピラもあるんだ」
「ニホンでご飯のときに言う…“いただきます”の意味、知ってる?」
「…よくは知らないけど」
「命を“いただく”ってことなんだよ。肉でも野菜でも、僕らは食べることで彼らの命を貰っているんだ」
「……」
「だから、なるべく無駄にしたくない。普通は捨てちゃうところでも、作り方次第で食べられる。美味しくだってなれるんだ」
「そうだったんだ…。わたしも、そういう心掛けしよう」
「僕が当番のときは大抵全部使ってるんだよ。キャベツの芯を刻んでハンバーグの中に入れたり」
「へぇー!」
「あとはそうだ、肉や魚の…ぞうもt」
「えええ!ストップ、ウッド、ストップ!(それ以上はちょっと…!!)」
「わぁ、綺麗な盛り付けですね!ブルースさんが作ったんですか」
「そうだが…(また博士にそそのかされた…!)」
「ちょっと勿体ないけど、いただきますね」
「ああ(…嬉しそうだから、いいか)」
「……(味がない…)」
「……(いつもは何か喋るはずなのに、なぜだ?)」
「……(調味料のこと、知らなかったのかな)」
「……(…良くも悪くもない顔をしている)」
「……(見た目はレシピ本と瓜二つなのに)」
「……(何を考えているんだ?)」
「…あの」「…おい」
「……(かぶっちゃった…)」「……(…しまった)」
「先、どうぞ」
「おまえから言え」
「……その、もっといろいろ食べましょうね。一緒に」
「……っ」
「……ね?(そしたら料理もわかってきますよ)」