お題で短文 2010.11



涙目


腫れ始めた瞳に水を溜めるは、小さく震えながらもそれを堪えている。
「素直に涙を流せばいいだろう?」
人は感情が昂ると涙を流す生き物だ。
彼女の行為に意味を見いだせず、私はその頬に両手をあてる。
「そんなの…負けたみたいじゃない」
赤みが差す頬は、こんな寒空の下に居るというのに暖炉の前に居るかのようだ。

「……ならば、負けろ」
何もかもを力でねじ伏せるのは信条に反する。しかし――に関してだけは制御が効かなかった。
そして、本気で避けない彼女も…満更ではないのだ。
「シャドーさ…っ、ん…」
再び、唇と舌を重ねれば――三つも数える頃には、閉じた瞼から涙が流れる。
確信を持って、私はの視界を片手で覆った。



(夢主:女性)
(300文字)

…表現についての習作。






初めの一歩


「はじめのいーっぽ!」

子どもたちがランドセルを放り出す放課後。
彼らは一斉に幅跳びをし、道路の停止線から宙に躍る。所謂“だるまさんがころんだ”の最初の儀式である。
その一線に並んで壁際にいた、ひときわ大きな体躯の厳ついヒューマノイドも児童の掛け声に反応し、飛んだ。

「うっわ!ズルいよ!」
「とびすぎー!」
「否、不正は無い。我は己の能力を最大限に使ったまで」

ずしーん、と大きな地響きを立てて跳躍した彼の名は――

「ヤマトマン!こういうときは手加減するモンなの!」

電信柱に立つ鬼役が憤慨するのを気にも留めず、その一歩手前で返した彼を、子どもたちは呆れた目で見るのであった。



(舞台:日本)
(280文字)

…ヤマトさんは真面目KY。

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