「空ってね、昼でも星はあるんだよ。知ってた?」
「明るくって見えないだけ…なんだよね」
「そう。そして、こうやって見える星は、みんな自分で輝いてる。」
敷地の裏の芝生に寝転がって、秋晴れの空を仰ぐスターマン。
長い睫毛を真上に上げて、彼のカメラアイは天の水色を映しとっている。
仕方が無いので付き合って、隣で一緒に寝転がってあげた。そうしたら彼ったら上を指差して、みんな僕みたいにキラキラしてるんだよ!なんて笑顔で言うもんだから、どんな顔をしたらいいのか分かったものじゃなかった。
「……年がら年中、主張が激しいことで」
「あはは、それくらいじゃないと銀河の中に埋もれちゃうでしょ」
ムスッと小さく返す。……つんけんした言い方を直したい。本当は。
スターは私のそういう気持ちに気づきはしないのだろうか。
「例えばさ。この銀河系がひとつのお皿なら、乗っかってる星たちはキレイに盛りつけられなくちゃフォークに引っかからないでしょう?」
「いや、誰も食べないと思うけど……掬うのはいったい誰よ」
「君だよ。」
起き上がった彼に、両手で両手を握られた。…ああやだ、スターのロマンチックモードが!
わざわざ逸らしてやってるのに、目を合わせるのやめて。混じりけなく好意を向けるのやめて。
意味分からないから、そのままキスの流れをやめて。分からないのに流される私って、彼以上の大馬鹿じゃない!
一しきり私の唇を食べたスターは、もう一回隣に寝転がって緋色混じりの空を仰いだ。
私の顔が赤いのは空のせいではなく、泣いたのは悲しかったからではない。
「シャドーがさ、前に教えてくれたんだけど。彼の故郷ではワンプレートじゃなくって、一つの深皿に何でも乗っけちゃう料理があるらしいよ」
「へえ。因みに名前は」
「ど ん ぶ り」
「……可愛くない」
異国の料理の名は、スターの口から聞くとガッカリする響きだった。見た事はないけれど、繊細さとはかけ離れていそうな…。
……それにしても、先ほどからの話は抽象的で言いたいことが掴めない。
「あの子が乗っけるのは、僕だけね」
「え?」
聞き返した私に、彼は茶目っ気たっぷりに舌を出してこう言った。
「どんぶりに乗せるのは、一品だけでもいいんだからね☆」
一周して、どういう意味かを把握した私は……言葉が出て来なかった。
飽きもせず甘言を吐くこのお星さまは、いつだって私の上で明るく煌めく。
だから私はまぶしくって、眩むしかないのだ……。
掴まれたと思う間もなくクイックの背へと持っていかれたわたしの手は、その背の少し上で離されてしまった。
「え…クイック、なに…?」
後から思えば…わたしは間抜けな顔をして聞いていた。見上げると、クイックはちょっと怒っているようだった。
でもそれは一瞬で――見る見るうちに、彼らしい表情がやって来た。肝心なところを伝えるのが下手な、いつものクイックだった。
「おまえが寒いっつーから排気ダクトに近づけてやっただけで……!」
クイックはポストのように顔を真っ赤にしていて、無性に可笑しかった。
大通りで腕組みをして立っていると、眼下に年端もいかない少女が何か差し出した。
「おてがみを、とどけてね、ポストさん」
「……メタルマンだ」
一瞬驚いて目を見開いたが、すぐ彼女に自分の名前を名乗り訂正をする。
「ちがうよ。まっかで、みちにおいてあるのは、ポストっていうんだよ」
「俺は博士をお待ちしているだけで」
「たいせつなてがみなの。おじいちゃんにおくってね」
無垢な少女は俺の反論を聞きもせず、色鉛筆で喧しく彩られた封筒をぐいぐい押し付けた。
「……」
届けるのは配達員の仕事だ――などと言っても、この幼さでは通じないだろう。
間もなく博士がお戻りになるはずだ。
二人で説得すれば納得するだろうか……そう思って、あと数分はやり過ごすことにした。
俺との関係は、傍目からはどう映るだろうか。
何をやっても彼女は俺に付いて来て…それが煩かった。
仕掛けてきたのはだった。
好きだと言って抱きついて、稚拙なキスを重ねて。
――誰もが“その気”であると確信するだろう。
だから俺は応えてやっただけだ。……俺なりの表現で。
「好きとか言っておいて、あれは嘘?」
耳の下から顎までの骨のラインをなぞる。
皮膚を赤に塗られていくは、まるでポストのように直立不動だ。
「なんで抵抗しないわけ?」
俺の問いは答えが来ることなく、ただ流れ去る。
閉じた瞼が震えている。好意と恐怖が混在すると、爆発的な感情が起こるとどこかで読んだ気がする。
「いいや。そのまま居ろよ。立てないくらいブッ壊すから」
どこからやれば一番愉しいだろうかと、俺は一人頭の片隅で考えていた。