お題で短文 2010.10



男女比


案内される道すがら、私は思い切ってワイリー博士に訊ねた。
「博士は何故、女性型のヒューマノイドを御作りにならないのですか」
彼の製造したヒューマノイドがみな男性型であるのを、私は常々疑問に思っていた。
世界中に天才の名を轟かせるこの御方が、ガイノイドを作れないはずがないのに。

「……半世紀以上付き合ってきた己の身体から作るんじゃ。間違っても女のヒューマノイドなぞ作りたくないわ」
気難しい彼は眉を顰め、忙しくなるので荷解きしたらさっさと寝ておけ、と付け加えると自室へ戻っていった。

要するに彼は、自分の身体にあるものを最大の手本としているのだ。
手伝うロボットは居ても創造する人間は彼しか居ない――その結果が、この男女比だった。

――「私は、精巧な……人間に極限まで近づけたヒューマノイドを作りたいんです」
知識も技力も到底足りないはずの私が彼の下に就けたのは、同じ理想を掲げる“女”だからか。

宛がわれた部屋に入るなり、埃っぽいベッドに突っ伏す。
「博士が女性型を作るには、私が不可欠……」
今日ほど自分の性別に感謝したことは無い。
尊崇する彼に必要とされた……そう思うだけで夢心地だった。



(夢主:ロボット工学研究者・女性)
(484文字)

…博士の理想については拙宅設定、悪しからず

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・「男女比」:初出
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