「いいか!俺とコイツは、許嫁なんだよ!」
ファイヤーマンがの腰に腕をまわして高らかに宣誓すると、一同は一瞬だけ静まり、すぐに轟々とブーイングを投げつけた。
「私はそんなこと聞いていませんよ!」
「ぼくもだっ」
「だいたい、ライト博士は何も言ってねぇだろうが!」
弟機と兄機達はファイヤーマンを“口撃”する。
じりじりと炎を弱める隣の男に、はため息交じりに呟いた。
「だから言っただろう。“嘘から出た実(まこと)”と言ったって、これじゃあ通用しないんだよ、ファイヤー」
キスミー・クイックというカクテルをご存知だろうか。
ペルノというリキュールをメインにして、オレンジキュラソー、アロマチックビターズを少々、それをソーダで割ったものだ。
カウンターに腰掛ける彼――ジェミニマンの先輩機の名の入ったそれは、なかなかに甘美で、彼も好きなカクテルだった。
「でも……妬けますね」
「どうして」
「貴女が最も好きだというカクテルに、私の名が付いていればよかったのに」
糊の効いたシャツに黒いベスト。カウンターの向こうでシェイカーを振る手を止めた女性は、僅かに頬を緩めた。
「私があなたにこればかり出す理由――まだ分からないかしら」
別にあなたの先輩機のファンなんかじゃないのよ?――そう言って、彼女はジェミニマンに顔を寄せた。
“スズキ”。
この国では平凡な名前の一つだというが、だからといって自分にはどうだっていい事だ。
「取りあえず、ね!エアーマンさん、私、帰宅しないといけないんですよ!」
ここ、会社だから!と彼女は、焦燥を惜しむことなく顔に表していた。
「ああ。構わないが」
「いや、だってエアーマンさん、私の家知らないでしょ?!」
そんな事を心配しているのか。俺のようなロボットがいないというのが、いよいよ真実味を帯びてきた。
「そうだな。だが、飛行も可能だ」
「そんな姿みんなが見たら、大変ですよ!自衛隊に撃ち落とされちゃいますよ!」
「吹き飛ばせる」
「だめーーー!」
先ほどから彼女は俺の肩口を押し込めようと必死だった。……だが恐らく、徒労に帰す。
「もぅ…!なんでスズキの軽、買っちゃったかなぁ……」
半年前の私の馬鹿あああ!と、は高らかに天に吼えた。
若干、涙目だった。
4という数字は丁度いいと思っていた。ファミレスに入っても席をくっつけて用意してくれるし、最悪2・2で分かれられる。
だから――その“最悪”の事態が来たら、わたしはこんな気持ちになるとは思っていなかった。
「グーパーしようぜ、グーパー」
トルネードは気が利かないヤツだった。運じゃあ3分の1だ。負け運に自信がある私では無理だ。
「え、男子と女子で分かれればいいでしょ」
スプ姉さんと一緒もいいけれど……本当は違うんだ、でもこんなこと言っちゃって、馬鹿だ私、何言ってるんだ、ああ分かって、ごめん。
「おい、早くしないと後ろがつかえる。」
そう、本当はあなたと一緒に居たいんです。二人きりになったら話せるかも分からないけれど、でも、少しの間あなたを一人占めしてみたいんです。
「トル、今日はあなたにおごる約束だったわね。私と一緒でいいわね?」
「はぁ?」
「ホーネット、とでもいいわよね?私達、あっちの通路側に行くから。じゃあ、後でまた」
スプ姉さんはトルネードの腕を引いて、サッサと席へ進んで行ってしまった。
(あとはあなたが頑張るのよ)
そんなテレパシーのこもった、ウインク一つ残して。