「フォルテ」
「……」
無視だ。聴覚センサは反応していない。
「フォルテ」
…まだ呼ぶか。
オレ、テレビの前にいるだろ。テレビ見てるように、見えるだろ。そういうヤツに声かけるとか…、どんな神経だよ。
「うるさい。」
オレはなんか気にならない。…ぜってーそっちに振り向かないからな。
「フォルテ」
……だーもう、何だこの――ッ、しつこい!
「…っ!」
「あ、こっち見てくれた」
「!」
…いつの間に、そんな近くに来てんだよ。
ソファ越しに頬杖ついて、嬉しそうに言うなよ。
「…が、ずっと呼ぶからだろ!」
「そうだね」
何でそんなに落ちついてんだ。オレだけ突っかかってるみたいだろ…!
ムカつく。感情が、こんがらがって来る。
ムカつく。どうしろってんだよ。意味わかんねー。
「……いいかっ、!」
立ち上がって、指差してやる。
「ん?」
「はバカだから、オレは何度でも言ってやる」
そうだ、オレはバカなに教えてやるのだ。
「オレはな!生まれたときから、のことが――」
「わたしのことが?」
……あれ?
「だい…」
オレ…何を言おうとした?
「…だい?」
だい…だいs――違う違う違う!ぜってー違う!!
「だいっ……大っ嫌いなんだよ!」
がチャチャを入れるから、危うくおかしくなるところだった。は本当にどうしようもない。
「…そうだったね」
「忘れんな!バカ!」
あ…少し、顔が曇ったか……?
いや、オレはが大嫌いだから、どうということは無い。腰に手を当てふんぞり返って、フンと鼻から息を吐いた。
「でもさ、フォルテ」
「まだ用あるのかよ」
本当にしつこい。言いたい事があるならサッサと言えばいいのに。
「フォルテって……わたしが疲れていると、普段はすすんでやらないお皿洗いを手伝ってくれたり」
…そんなの、たまたまだろ。
「大切にしてたブレスレット無くしたら、知らないうちに探して見つけてくれたり」
…それは、そのままだとがいつまでも喚くだろうから…。
「今日なんかも…誰もいなくてさみしいなぁって言ったら、こうやってリビングにずっといてくれたり」
…これは…その――!
「すっごく優しいんだよね」
な、何だ、そんな顔して。小首をかしげて。そういう事を言って。
「そ、れは…」
「わたしは、そんなフォルテが大好きだよ」
「っ!」
好き?大好き?がオレを?!
そんなわけがない。オレは面と向かって大嫌いと言った。
……そうか。そんなヤツを好きと言うくらい、の思考回路は致命的なんだ。
「…、やっぱバカだろっ」
「そうかな」
「オレはなんて大っ嫌いだからな」
念を押して言ってやる。そういう優しさをオレは持っている。
さっきのセリフで急激にかかった体内の負荷が落ち着いてきた。…これだからは困る。
「わかってるよ。…それでも」
「それでも、なんだよ」
嫌いなヤツの話を聞いてやるオレをありがたいと思え。心の広さを見習え、。
「こんなにもたくさん、わたしの名前を呼んでくれるフォルテが、大好き。」
……え?
大好きもそうだが…その前に、は何と言った?
「……名前?」
オレは、名前をたくさん呼んでいた?
「うん、名前。なんでもかんでも。」
ニコニコと心底嬉しそうには答えてくる。ちょっと前の曇った顔よりはいい。
……あれ?何だ、今のオレ?
待てよ。したら…こんなに気持ちがこんがらがるのは、オレがを嫌いなせいじゃなくて、正反対の――?!
「!!」
ハッとした。
そんなオレを見るや、はいきなり抱きついてきやがった。
首元から引き寄せられたせいで、オレはソファに半ば倒れるように乗ってしまった。
これは…急にそんなことをするのが悪いのだ。オレの油断、じゃない。
おかげでソファの背もたれがジャマだ。くそう、顔だけが近いとか…何だよこれ?!
「よっこらせっ」
オレにかけた腕はそのままに、こちらに体重をを預けたは器用に背もたれを乗り越えて、オレのもとへ落ちてきた。
というか、その掛け声…ババアか。
…じゃなくて。より近づけだなんて、オレは注文していない!
「…は、放せっ、離れろよバカ!」
「フォルテがギュッてしてるからムリだよ」
「なっ?!」
オレが…ぎゅっ、だと?!
いや違うそれは落っこちてきたを受けとめようとしただけであってオレからくっ付こうと抱きかかえたワケではない断じて!!
そしてが腕をほどいてくれないのが最大の原因だ。のせいだ。
「がギューギューするからだろ!」
「どっちでもいいよ、…ね?」
“ね?”って…どういう意味だ?!だーもう、さっきからメモリ負荷がMAXなんだよこっちは!
「〜〜っ!」
…だから、だからオレは、が――!
(だいっ……大好きだったんだ!!)