hot cocoa, AIR MAN, and...



「兄さんはホットココア大好きだよね」
ホットココアを一口。
ほっ、と息をついたが(これはシャレではない…念の為)俺に訊ねた。
大方予想はつく。俺がドリンクを作ると、大抵これにするから質問されたのだろう。
嫌いだったか?と聞くと、そうではなかった。今更だが…安心した。
まあ…リクエストがない限り、自分の好物ばかりを与えていたのでは覚えられても仕方がない。
「そうだな。…なんだ?」
「…いや、なんかかわいいなぁって」
俺の返答に、くすくすとが背を丸めて笑った。
「か、かわいい…!?」
「だって…兄さんてバリバリ硬派でみんなのお父さんみたいな感じなのに、コ、ココア…っ」
どうもツボに入ったようで、抑えようとしてはいるが笑いが漏れている。

「し…しかもっ、上にふわふわの生クリーム浮かべたのが、一番好きなんだよね?」
俺は思わず立ち上がった。勢いで俺の座っていたオフィスチェアが、ガターン!と音を立てて倒れてしまった。
「なっ…、なぜ知っている!!」
「くくっ…、そりゃあ2年も一緒にいればわかるよ、ふふふっ。あのね、兄さんが買い出しに行くと必ず生クリーム買うでしょ?それにクリーム泡立ててるときの兄さんはいっつもご機嫌なんだから」
言い当てられた上に、たぶんみんなにもバレバレだよ、と止めを刺されて俺はがくりと膝をついた。そういえば泡立てている時を思い返すと…なんとなくニヤついた視線を感じたような――俺はカワイイと思われていたのか!
「最悪だ…次兄としての威厳が…」
「べつに関係ないと思うよ?ていうかそもそもココアの時点で…っ」
「……」
おさまった笑いがぶり返しそうになって口を抑えるに、俺は何も言えなかった。

「いいんじゃない?何が好きだって。それに兄さんの作るココアは特別おいしいよ。私、大好きだもん」
「…そ、そうか。」
恥ずかしかったが先までの勢いが醒めた俺は、イスを起こして座りなおした。
だが…なんというか、居た堪れないような気分だ。
「堂々とクリームでも何でも入れて飲めばいいよ。我慢もよくないんだから」
うんうん、とひとり納得したように頷いて、はココアをすすった。

あらためて自分のカップに目をやると、モカベージュの海に俺のシルエットが映った。大好きな香りをより強く感じる。
「……」
向かいを見やれば、俺の前で最愛の少女が穏やかな時を満喫している。
…好きな物を、好きな者と共に。
これ以上にない、幸せなことだろう。

幸せ――。
ああ…そうか。が言うように、構うことはない些細な問題なのだ。
俺はこの幸せを知ってしまった。その記憶を手放すなんてことはしたくない。

「その…。」
カップと目の前のを、俺の視界はかわるがわる移す。視線が泳いでいた。
「たまには、その…。こうやって、話をしないか」
「え?」
意図をわかりかねて、はきょとんとした。
「一人で飲むのもいいが、おまえと話をしながら飲むのも…悪くないものだ」
こういう気持ちを伝えるというのはどうも慣れないことで、言葉が途切れ途切れになる。
…今の俺はどんな顔だ?おまえには…どう映っている?

「兄さんがいいのなら、喜んで!」
そのときはまたおいしいホットココアを入れてね、とは無邪気に笑った。
なんとも、単純なことだった。
そんなを見た俺は、胸に花が咲いたようだった。
……すなわちこれが、幸せという花なのだろう。


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硬派なエアー兄さんは意外にオトメンかも…と思って浮かんだのがこれ。
うちのナンバーズさんたちは、飲み食いできる仕様です。