師走に入った半ばの頃。年の瀬になると俄かに周りは色めき立つのはこの研究所も同じで、居間にはクリスマスツリーが飾られていた。
「…全員おるな?」
ソファに腰を落ち着けて髭を擦っているのは、ここの主である。全員、と彼が指したのは自身が製作した8体のヒューマノイドだ。
「はい。」
静かに肯定を伝えたのは、彼の処女作であるメタル。
「はーい!」
自慢のドリルアームを上げて明るく返事をしたのはクラッシュだった。
「で、なんだよ集合させて?」
フラッシュは壁にもたれて進行を促す。
「もうすぐ、クリスマスじゃな」
「そうですね。あー、早いなぁ」
ウッドはしみじみと時間の速さを思っているようだ。彼らは非常に人間的な感覚で動いているのだろう。
「ねーねー今年もターキー焼くの?」
「…お前たちに任せるぞ」
博士の腕をつかんでヒートが尋ねた。
「よっし!ねーメタルぅ〜焼いてよ!」
大きな目を少し上目がちにしてメタルに頼む姿はぶりっ子の塊だが、わかっていても可愛らしいのが彼なのだ。メタルはそんなおねだりに関係なく判断を下すが、ヒートは他者の視線もあることを知っているので態度は変えないでいる。
「……構わないが」
「やったあ!メタルの焼いたやつ超おいしーんだよねー!」
「ヒート…博士の話をまず聞きなさい」
このままでは本題がいつになっても来ない…とエアーが軌道修正を試みた。
「はは、まあ構わんよ。そんなに急ぎでもないからな」
博士は組んでいた足を直して、言葉をつづけた。
「クリスマスの話題を出したのはな、との夜の問題があるからじゃよ。クリスマスが特別なものだというのは、もちろんも知っておる。それなのにいつも通りのローテーションで例の実験をするのも、何じゃな〜と思ってな」
例の実験とは、この研究所に住む少女とヒューマノイド間における恋愛感情の進展及び生殖実験である。この博士のちょっとした興味から凝りに凝った結果、現在に至っている。
「…要するになんだよ」
「ちょっとしたゲームをしようじゃないか」
「ゲーム、ですか?」
クイックとバブルが怪訝な顔で言った。
「うむ。勝者がを自室につれていけるゲームじゃ」
「…はあ。」
他のものも似たようなリアクションだ。クラッシュもわからないまま返事をする。
「イヴは去年と同様にパーティーをするんじゃろ?そこで、プレゼント交換をする。どうせお前たちは宛てにしか準備をしないのはわかっとるが、それを逆に利用するんじゃ。彼女の目の前に誰からかわからないプレゼントを並べて、最初に開けた送り主が勝者。どうじゃ、簡単じゃろ?」
説明にまず言葉を返したのはフラッシュだった。
「つまり、イヴにと寝られる権利をかけるわけか」
「そういうことじゃな」
「…うーん。プレゼントの中身が気にいったとか、そういうのは関係ないんですか」
バブルが質問をする。
「あくまで“開けた”もので判断する。最初に触ったとか、開けたものがに合わなかったとか、それは一切問わん」
「じゃあ、運で決まっちゃうんじゃないかな?」
「そうでもないぞ。中身は分からずとも、外見の大きさや包みの綺麗さ、が興味を引く要素はまだまだある」
「あぁーそっか。そうですね」
ウッドは思いもしなかったことに、うんうんと納得していた。
「…成程。博士、おもしろい提案ですね」
「め…メタル、なんか怖いぞ」
すうっと目を細めたメタルに、クイックはただならぬ雰囲気を察知したようだ。
「じゃろ?がっはっは!」
「プレゼントの中身が関係なくっても、後のことを考えると、ちゃんと気に入りそうなの選ばなきゃな〜」
「……」
「んー、なんかけっこう難しいかも」
ヒートの呟きを聞いて、エアーは考え込んでいる。おそらく彼と同様の思いを、クラッシュはからりと喋っていた。
「まあ、適当に盛り上がりなさい。当日は不正のないようにワシがジャッジするからの」
「ふーん、了解。あと10日くらいはあるしな、テキトーに考えるぜ」
フラッシュが、話は終わったと言わんばかりに出口へ向かっていた。その彼の言葉を聞いて、クイックは焦り声を出した。
「えっ10日しかねーのか!全然考えてないのに…」
「こらフラッシュ、まだ解散と言ってないだろうに!だあもう…よいわ、話おしまい。解散!とっとと散れ!ぶわーか!」
勝手な我が子に癇癪を起こす博士を、末っ子は必死になだめようとした。
「は、博士…子供じゃないんですから」
「ウッド…それもたぶん失礼…」
「えっそうなの!?ごめんなさい博士!」
冷静なバブルの突っ込みが冴えていた。
クリスマスイヴまであと数日。それぞれの思いが渦巻いて、時は過ぎゆく。